『ユーコさん勝手におしゃべり』 バックナンバー目次

6月29日
 銀行へ記帳をしに街へ出る。青信号になり交差点を渡っていると、むこうから白髪の老婦人が走ってきた。「走る」という行為がそぐわない年齢にお見かけしたので「すごいな」と思った。すれちがう時、老婦人の息まじりの声が聞こえた。
 「ころんだら たいへんだわ ハッハッ
  ころんだら たいへんだわ ハッハッ」
 それは自分へのいましめか。余程急いでいたのだろう、その青信号に間に合いたいがために、自らへ注意を促しながらも走る御婦人。いくつになっても主婦は忙しいのだ、きっと。

6月27日
 6月が終わる。6月は子どもの季節だった。ここ1週間でたくさんの子どもらを見た。
 まず かるがも。朝、車で近所の綾瀬川沿いの道路を走っていた。赤信号で止まる。カラスが数羽やけに騒いでいた。信号が青になっても前の車が走り出さない。電線の上から大声で鳴くカラスの視線の先を見ると、交差点の中でかるがもの子どもたちが右往左往していた。5羽ほどの子かるがもの前にも後にも親鳥がいない。先導者のいないかるがもたちは綾瀬川方向へ行きかけては戻り、右へ行っては左を向き、困り果てている。青信号なのに止まっている車列に、事情を知らず業を煮やした車がうしろから追い抜き走り抜けていく。困惑して見守る通行人の中から、おじさん2人と自転車の高校生1人がかるがもを拾い始めた。かるがもたちは多少の抵抗を試みて停車中のトラックの下にもぐりこんだりしながらも全てつかまり、通学途中とおぼしき高校生の自転車の前かごに集められた。ホッとして車はそろそろと走り出す。そこで私もその場を去った。かるがもを助けた3人はあの後どうしたろう。高校生は遅刻してしまったろうな。親鳥のいないかるがもは育つのだろうか。あの後いったいどうなったのか気になる。
 2番目は子猫。店の近所で猫が生まれた。顔見知りのノラ猫が子猫を産んだのは、鳴きかわす声でずい分前に知った。そしておとといの雨上がり、店を開けていた店主が、「オーイ、ねこ入っちゃたぁ」と大声を出す。あわてて声の方へ行くと、「店のドア開けたら子猫がスッと入っちゃって。向う側から追い出して」と言う。いたいた、ちっちゃい白と黒の猫。早く出してやらねば親猫はさぞ怒るだろう。奥から追い立ててドアから外へ出す。しばらくうろうろしていたが、無事に親元へ帰ったようだ。自立への訓練中らしく、その後、親猫に引率されて店の前の4メートル程の道路を渡る練習をする姿を見た。車もめったに通らない小さな道だが、子猫にとっては一大決心がいるらしく、3匹の子猫が、ある者は親について渡り、ある者は中ほどまで行って立ち止まり親を呼び、もう1匹は渡れずに路地に引き返していった。親猫はそれぞれの性格に合わせてそれぞれに子育てしてゆくのだろう。
 3つ目は子雀。これは今朝の話だ。朝店主と自転車を走らせていると道に子雀が落ちていた。まだフワフワのうぶ毛で、雀の柄もなかったが、以前巣から落ちた子雀の世話をしたことがあったので雀とわかった。近くに親がいて鳴きかわしているが、このままでは車にひかれてしまうし、カラスにみつかればひとたまりもない。店主が自転車を降りて雀を手のひらですくい、親鳥に威嚇されながら、道の端にそっと置く。子雀はヨタヨタと道端の雑草の陰に入っていった。「大丈夫かなあ」とその場を立ち去った後も店主は何度も言う。
 その後用を済ませて店に戻り、普通に仕事をしていた。昼過ぎ、「ちょっと買いものに行ってくる」と店主が外に出た。しばらくして戻ってくると開口一番、「大丈夫だった。親がエサやってた。」 子雀は店主の置いた道端の草陰にいて、そこに親雀がエサをやりに来ていたそうだ。飛べるようになるまで、どうかカラスにも猫にも見つからずに過ごしてほしいものだ。

6月20日
 店の脇でプランターの手入れをしていると横の道を2匹のシェルティ犬が「ワンワン」とほえながら疾走してきた。自転車にのったおじさんに「おっと、危ない!」と言われている。しばらくして曲がり角で待っていた犬に飼い主のおばさんが叱って曰く、
 「あんたたち四つ足でしょ!! おかあさん2本しか足ないんだからそんなに早く歩けない!!」
 すばらしいセリフに、思わず顔を上げ、青シャツのおばさんの後姿を見た。ふつうは、「つけ!」とか言って自分の足をたたいたり、「離れちゃダメ!」とか言うところでしょ。いくら「おかあさんのいい子たち」でも、街中でリードをつけないこと自体、ルール違反のはずです。しかし、おばさまの論理はそんなことを全て超越していた。強力なおばさま力に脱帽。

6月16日
 キャッチーな題名にひっかかってしまった、わけではないと思いたいが、そうかもしれない。
 書評を見た翌日、本屋へ行ったがお目当ての本はなく、買うつもりもなく平台を眺める。ふと一冊の本の表題に心ひかれる。パラパラとめくるが、職業柄か長く立ち読みする気になれない。本を下に置く。でも気になる。だって面白いんだもの、題名が—。そういえばこの人の本買って読んだことはないな、自分の店ではよく見かけるけど—。
 だんだんその本が面白そうに思えてくる。値段も手頃だし…。ええい、もしかしたらすごく面白いかもしれない!、と意を決してレジへ持っていく。まだ読んでいない。きっといろいろ発見があって面白いさ、と思いつつ、つい先日一番面白かったのは題名のつけ方だったという本を読んだばかりでちょっとこわい。
 予告編みたらワクワクしたので見に行ったら、良いシーンは予告編に使われてるとこだけ、って映画と通ずるものがあるよね。

6月15日
 花菖蒲の季節である。朝、店主が「菖蒲園にでも行ってみるか」と言う。それから少し間をおいて、「でも、混んでいるよぉ〜」とおどかすような声で抑揚をきかせて言う。「アレ…?」と思った。何かいつもと違う。「今変だったでしょ、言い方。いつもなら『混んでるよぉ〜』でしょ。『混んでいるよ』なんて言わないよね。『い』ひとつで違う人みたい。」「そうかな。…そうだな。」
 「反対に、いつも『君、でもそこは混んでいるよ』と言う人が急に『混んでるよぉ〜』って言ったら、『どうしたの急にくだけちゃって』と思うよね、無意識は恐いね。お里が知れるってこういうことなんだね」と一人で納得しつつ、「混んでるよ」「混んでいるよ」と何度か声に出して言ってみる。何気ない言葉使いは恐ろしい。デパートで買いものする時丁寧な言葉で対応されても違和感はないが、近所のドラッグストアや、スーパーで、しれっとした男子高校生のレジ係に丁寧語を使われ両手を揃えてあいさつされると、妙に緊張してしまうのは、こういうことなのかもしれない。本人と言葉が調和しているかどうか、その言葉がしみついているかどうかは、相手に自然に知れてしまうものらしい。頭の中でいろいろ考えながら自転車をころがして堀切菖蒲園に着くと、花も人もいっぱい。確かに混んでいました。

6月5日
 時計草が咲きました。二日前にさいしょの一輪を見つけました。時計草の花はおいしいらしい。毎年つぼみはたくさんつくのだが、虫たちがつぼみの中に入って中身を食べてしまうようで、つぼみ数に比べて花数が少ない。今年はどうかと心配していました。心配するくらいなら駆除すればいいのだけれど、薬を撒くふんぎりがつかない。姿を見ると「虫も生きてる」と思うし、小さな花壇にやってくる小さな蝶や蜂への誤爆も避け難い。
 今年は5月に雨が多く、油虫が茎を覆う勢いだったので、さすがに数回スプレーを撒いた。それが効を奏して、楽しみにしていた時計草が咲いてくれている。むくげもつぼみの姿を見せはじめて、当分、次々あらわれる季節の愉しみに目を細めて過ごすことができる。
 近所の堀切菖蒲園も、花盛りで、ほんの2週間前には見るものは池の亀ばかりだったのに、今や花と人とカメラで、大にぎわいだ。丸坊主で、鉄の骨組だけだった萩のトンネルも、人の背丈ほどに萩がのびている。「秋には主役はこっちのものよ」という萩の呼吸をきいて、トンネルの中で、「がんばってね」と声をかける。「成長する」っていいなぁ。

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