『ユーコさん勝手におしゃべり』 バックナンバー目次

10月24日
 季節外れの堀切菖蒲園へ行ってみた。ひとつは亀がもう冬眠したかを見るために。もうひとつは萩のトンネルのその後を見るために。入り口を入ると、遠目に萩のトンネルはもうただの金属のトンネルになって葉の一枚もなかった。切り株となった萩の姿を見て、「やはりしっかり手入れされているのだな」と感心した。同時にずぼらな人にはムリだと悟り、そのうち自分でも萩のアーチをつくってみようかという野望は断念した。「来年もまた楽しみに見せてもらいに参ります。」 そして、何もないと思っていた菖蒲園へ数メートル入って、感動。冬桜だ。葉のない木にしっかりと薄桃の桜の花が咲いていた。2・3メートル置いて二本並んでいるうちの一本は花をつけもう一本はまだ開いていない。園で松の手入れをしていた方に聞くと、建物のかげで日照時間が違うという。木の敏感さに感動する。そして、それを知っているおじさまにも。前回行った時には、まだひなたぼっこしていた亀は、もう姿が見えなかった。我家の飼い亀もほとんど動かなくなってきた。そろそろ冬眠の支度をしてあげねばならない。

10月23日
 ここ1週間位、どうも気になって仕方ないことがある。それは「本はどうして本というのだろう」ということである。「本」という字は「本当」とか「本物」というように、事実・真実という意味のことばだろうと思う。でも「本」には必ず本当が書いてあるとは限らない。それとも本の出来始めのころの本には、本当のことしか書いてなかったのだろうか。あるいは、「これが本当」とまことしやかに人民をだまくらかすために「本」はあったのだろうか。はたまた、本のはじめは本ではなくて、ただのお手本の紙で「これをもとに図や字を練習してね」という提供品だったのかもしれない。まぁ、調べればわかることなんだろうけれど、いろいろ想像して仮説をふくらますのも楽しく、連日暇を見つけては(勝手に頭に暇をつくっては)思い巡らせている。何せ「本」とかいっても最近の「本」ときたら、「本当のこと」より「うそこのこと」を書いてある方がぜんぜん多いのだからね。

10月15日
 紅葉のニュースを見る。山の上の方が紅葉して徐々に里へ降りてくるという。頭の中に日本地図が浮かび紅葉前線の南下を思い浮かべる。そして、「南下」ということばにふとひっかかる。北上と南下。空は上、地面は下は、確かにそうだと実感できる。でも、北が上、南が下ってことをいつ自分は実感したろうか。頭の中にある地図はいつも上が北だけれど、外へ出て陽のあたり具合から、「あちらが東、こちらが南、こっちが西でこっちは北」と指さす時、上と下とは思わない。
 たまには地球儀もひっくり返したり転がしたりしてながめてみるか。そうなると、地球やthe earthという名前も気になってくる。「地」より「水」の方が多いのに、この星全体を「地」と呼んで、人は長い時間をかけていったい何をしてきたのだろう。「そんなことは当たり前」「それは便宜上のこと」と気にもしないで過ごしてきたことに、急に疑問がわいてきて、何だかとてもすまない気持ちになることがある。何かに向かって「ゴメンネ」と言いたい気持ちになってきた。

10月9日
 本は、売れる時は少しずつちまちまと売れるが、入ってくるときはドサリと大量に入ってくる。そこで本の収納場所問題が起こる。店主が山を崩し次々手入れをして値をつけていったものを、それぞれ適所に配置していくのだが、これがたいてい一筋縄ではいかない。昔行った小劇団の芝居小屋を思い出す。地べたに座布団なんか置いてあるのだが、一人1枚に座っていてはお客さんが入りきれないので、劇団員の人が「ボクがセーノって言ったら、みなさん少しずつおしりを浮かして奥の方へつめて下さーい」と指示する。「セーノ」の合図で少しずつ隣との間合いをつめて、なるべく多くの人を座らせていた。まるでそんなかんじで、目ざとく本の抜けたところを見つけては本をつめていき、本棚の上に隙間があれば一冊横置きにしたりして、新入荷の本を入れる。詰めすぎると本を抜く時痛んだり帯が切れたりしてしまうので、本を入れたあと、本の背を軽く左右に揺らして多少の余裕のあることを確かめる。うまく入ればうれしい。どうしてもダメなら、本はとりあえず棚の前に積まれる。
 読書家のお家は、この逆なのだろう。少しずつ少しずつ本が増えて、知らないうちに部屋が本でいっぱいになる。床が抜けそうになったり、抜けてしまったり、家人から「これでは本を住まわすために家賃を払っているようなものです」くらいのことを言われたり自覚したりして、ある日意を決して整理する。古本屋へ持って行ったり古本屋が来たりして、「ああ、これで我家もすっきりした」と言うそばから、「またこれで、好きな本がゆっくり読めるな」なんて思ったりして。こうして良循環は生れてゆくのでした。

10月2日
 台風が過ぎ去り、「こんなに晴れていいのか」と思う位の青空だ。探しても探しても雲がない。注文の本をとりに書庫まで自転車を走らせながら上ばかり見ていた。
 左手のこうが何かチクチクくすぐったい、と思ったら、蚊がとまっていてあわててたたいた。蚊はつぶれ私の左人差し指の第1関節と第2巻節の間に血がついた。「うわっ こんなとこ刺すなんて人間じゃない!」と思ったが、確かに人間じゃなかった。蚊だった。刺されたのは人差し指第1関節と第2巻節の間と人差し指の付け根。虫刺されは末端へいくほどかゆい。店に帰って、手を洗ってセロテープを貼った。以前テレビで蚊に刺されたところにバンソコを貼るとかゆみが早く治まるという豆知識を得て実行している。なるほど最初の5分程はかゆいがその後は治まり、かきこわすこともなくなった。古本屋業務では手にバンソコは貼れないので、見た目は悪いがセロテープにしている。バンソコは手を洗ったりすると、ガーゼ部分に水をふくむ。本はみなパラフィンがかかっていて、これがすこぶる水に弱い。パラフィンは水や湿気、日焼けから本を守ってくれるが、少しでも水がつくと、すぐそれとわかる。そこが良いところでもあり、水気がある手で触ったらすぐバレルからちょっと不便に感じるところでもある。 
 指を蚊に刺されてついてないと思ったら、検品中の本の間に葉書がはさまっていた。はさんだ本人が忘れるくらいのものなので、葉書の額面は20円。でもこれを不労所得というのかな。

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