『ユーコさん勝手におしゃべり』 バックナンバー目次

5月27日
 この時期、古本屋の大敵は、ハエだ。よく晴れた五月、空気の入れ替えに店のドアを開けたくなる。が、一旦ハエの姿、または羽音がすると緊急事態の発生に、店内は緊張し、確実につかまえるまですべての作業は中断する。お客様の手許にゆくまで何十年でも本の状態を保ち管理するのが仕事なので、ハエにフンでもされた日には大変だからだ。店番机の後ろのドアの中には常時虫取り網が用意されている。ドアを閉めて、店主は昆虫採集に熱中した少年の頃の構えでハエを追う。見失おうものなら罵声が飛ぶ。「何やってんだ。ドコだよ、捜せ!!」 なにしろ、生活がかかっているのだから、子どもの頃の虫取りより気合が入っている。ハエがつかまり平和が戻るまで、店内中気を張り詰めて羽音のゆくえを追う。
 別に虫が嫌いとか憎いというわけではない。外にいる分には寛容なのだ。「ここは、オレの縄張りなんだから入っちゃいけねぇよ」というメッセージが何とかハエに伝わればいいんだけれどね。

5月20日
 昨日浅草へ行った。浅草は前日まで三社祭だった。祭りの翌日の街は、シャッターに「あいすみませんが本日お休みします」とか「19・20日連休します」という張り紙をした店がたくさんあった。いつもより静かな商店街を通り脇道へ入る。靴屋へ入ると、足首に包帯をいっぱい巻いたお兄さんがサンダルを見ていた。靴を一足買って外へ出ると、向かいの洋品店から腕を包帯でつったおばさんが連れの人とおしゃべりしながら出てきた。「ふぅ〜む」と思いつつ、道に止めておいた車に乗る。すぐ前の横断歩道を渡るエプロン姿の若奥様の足首に、包帯がある。そうか、三社祭はやっぱりすごいんだなぁ。町内ケガ人比率が、にぎやかで盛大な三社祭の名残りを思わせるのでした。

5月18日
 私の字は粗相である。時々丁寧な字に憧れるが、この年齢になると「ダメはダメなりにそんな自分が好き」という部分が大きくなり直すことができない。文字を書いていて、ふと思い出したんだけれど、こんな私も一度人の字を真似てみたことがある。小学校の頃、かわいくて頭が良くて正直な女の子がいた。妬みから嫌われるということの入る隙もないほどまっすぐな人だった。その子が右肩下がりの字を書くのだった。優等生としては板書の機会も多く、黒板上の角張った右肩下がりの文字をクラス一同よく眺めていた。そして自然と洗脳され、右肩下がりの文字を書く女子がクラスに増えていった。ちょっと斜に構えてクラスを見ていた私もなぜか右肩下がりの字でノートを埋めていた。それが、秋のある日突然彼女が文字を変えた。その日いきなり黒板に四角い右肩下がりはなく、大人な文字が並んだ。「こんな変な字、書くんじゃない」とお父さんに言われちゃって、と彼女は言っていた。
 彼女のお父さんは厳しいので有名だった。「女の子は勉強なんかするもんじゃない。家の手伝いをしろ」と言い、家で勉強していると怒られ、通知表は決して見てくれない、と人づてに聞いた。クラスで一番の通知表に全く興味がないお父さんってどんな人だろう、と思っていた。
 とにかく彼女の字はかわった。大人な文字だが魅力はなくなった。クラス内右肩下がり文字比率も自然と下がった。私もいつの間にか右肩下がりをやめていた。
 今となっては、なぜ自分が彼女の文字を真似て書いてみたのかわからない。明るい彼女の性格に憧れのようなものがあったのだろうか。
 小学生の終わり、なりたい自分が身近にあった、幸せなころ。

5月14日
 今日のキーワードは「わけもなく不機嫌」
 朝、時計がわりにテレビをつけている。朝のワイドショーには、星占いが組み込まれていることが多い。一局で星占いを聞いて、チャンネルをかえて他局の星占いもみる。今日の私はラブ運が悪いらしい。局がかわると内容も違うこともあるが、今日は二つの民放局から恋愛運が悪いと言われてしまった。それで、もし、私に彼氏がいて、その彼の星座のラブ運が絶好調だったりすると、私はきっと「どういうこと!? 新しい出会いって何!!」と思うだろうな。かくして冒頭のことばとなる。彼に会ってもなぜか素直になれず、わけもなく不機嫌—。「何なんだよ、女ってわからないよな」と口をとんがらす声がどこからか聞こえてくるようだ。ただ、モーニングショーを見ていただけなのに、朝っぱらから空想癖がとまらない。

5月9日
 夜トイレに行った。壁にはってある2ヶ月1枚のカレンダーを見てちょっとびっくりする。「もう半分まで来てるのか。」
 「1、2。 3、4。 5、6。」
 「7、8。 9、10。 11、12。」と指おり数えてみてもやはり半分だ。「ほぉ」とため息をついてもう一度カレンダーを見てから、寝た。
 朝、目が覚めて、まだ寝ぼけた頭にことばが浮かぶ。
 「カレンダー 枚数をみて おどろかれん」だ。
ふと口に出して言ってみる。そばにいた家人に笑われる。
 何で眠りながら駄じゃれなんか考えてたんだろう、私は。
 
5月5日
 朝、少し早く起きた。わくわくするような目的があって早く起きるのは、すてき。
 いつも夜寝る前には、「明日はアレをして、コレをしよう」と計画を立てる。その時点では明日は無限なので、午前中開店前に5つや6つの予定が詰まっている。朝起きると、それは実行可能な2つか3つに減っている。ポストに新聞が入っていれば読みたくなるし、しぼんだ花が枝についていればつまみとってあげたくなるのが人情ってものだ。時間は飛ぶようにすぎてゆく。結果として、いつも開店前にできることは1つか2つの用事のみとなる。日々少しずつ悔しさをひきずって仕事をしている。「何てグズなんだろう、何でこう時間がないんだろ…」
 そこで今日は初めから1つにしぼった。いつもよりテキパキ起きた。花の終わったサツキの剪定をするんだ、と決意して。プランター育ちの小さな一鉢、勘を頼りの自己流だけれど、文句を言う人もいないので、「今年はやっぱりショートカットだよね」と木に話しかけつつ明るい気持ちでハサミを持つ。
 天気の良い5月の朝は、何をしても気持ちがよい。ちょっと路地を散歩すればあちこちで花が咲いている。「ラタンキュラス、わすれな草、ジャスミン…」と知っている花の名前をたどっていく。人様のお庭でなくとも道端にもたくましく小さな花々が咲いている。みんな育ってゆくんだなぁ、と自分の中にも力がわいてくる。
 おじぎ草の種を買ってたくさん撒いてみた。伸びたら遊ぼう。

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