ユーコさん勝手におしゃべり

11月30日
 今朝新聞をあけたら一面に、木下順二氏が亡くなったという記事があった。鉛筆書きの、本への書込みの文字が思い出され、衝撃を受けた。以前先生の旧蔵書に接する機会があり、そのことをこのコーナーに書いた。その際はお名前を「○○XX」さんとしたが、実は木下先生だった。急に懐かしくなり読み返してみた。2005年10月8日付の「勝手におしゃべり」です。2005年10月のページにリンクをつけます。
 合掌。

11月29日
 雨上がり、窓を全部開け放って掃除機をかける。
 隅々のほこりをていねいに吸い取ってみんななくせば、心の中のもやもやもくさくさも、いっしょに消える気がする。
 まだ年末までは間があるはずなのになんだか気忙しく、11月が過ぎてしまいます。都内の公園は今紅葉が盛りで、どこへ行っても見飽きることがありません。気忙しく過ごしているというわりには、気付けばあちこちの紅葉・黄葉を思いつきます。所用でちょっと出かけた時に触れる数分でも、目を憩わせてくれる植物の恵みに感謝。
 先日、近所にある天文の博物館の「星を見る会」に参加してみました。星はオリオン座くらいしか見分けられないので、うまく溶けこめるのか不安でしたが、行ってみれば楽しいひとときでした。レクチャーを聞いて大きい望遠鏡をのぞき、屋上で星を見ました。カシオペアの位置を知り、夏の大三角を見つけました。「名前」の力にはいつも驚きます。今まで見ていたのと同じ星空が、星の名前を知っているだけで、比べものにならないくらい身近に感じられるのです。
 何を聞いても答えてくれる講師の方に、「いくつくらいから星の名前を覚え始めたんですか」と伺ったら、「小学校4年生くらいかな」と答えてくれました。街で見かければ普通のおじさまですが、「かっこいい」と思いました。好きなものがあり、貫く意思がある人は、みな、とてもすてきです。
 植物の名前、星の名前、電車の名前、虫の名前、鳥の名前、工具の名前、本の名前、色の名前…、無数にある何かの名前を、自分の生きた知識としてもつ人を尊敬してやみません。これからも本屋として、そういう方たちを、ひそかに応援していきたいものです。

11月17日
 「実直」ということばが本日のキーワードだった。
 店舗のブレーカーの工事をすることになり、今朝電気屋さんが来てくれた。店主が話しかける世間話に、「もう還暦も過ぎましたよ」と作業の手を止めず後ろ姿で答えている。職人さんの手元には、使い慣れた工具類が並んでいる。「電動ドリルは好きじゃないんですよ」といいながら、ひとつひとつ手でしっかり確かめて、ねじをくるくるぎゅっ、と締めていく。ベテランの職人さんと、いろいろな現場でいっしょに時を過ごした工具類をうしろから見ていたら、「実直」という単語が浮かんできた。
 疑心暗鬼にならざるをえないような事件ばかりが続いていて、実直ということばを日常生活で使うことはめったにない。口下手な職人気質の人柄の余韻で、一日を穏やかな気持で過ごすことができた。
 そしてもうすぐ閉店という時間帯、私は書籍のデータアップのための原稿を書いていた。頭は「ソクラテスの弁明」と読んだが、紙には「ソクラテスの弁当」と書いていた。少々お腹もすいてきた頃、「弁」と書いたら手が自然に動いてしまったらしい。恥ずかしさに一人消しゴムを動かしながら苦笑した。地道とか実直ということばからずいぶん遠いところに、どうも自分はいるらしい。

11月11日
 読書の秋、なのか、このところ読むべき本や読みたい本や読まねばならぬ本が急にたまり、あちこち手をつけつつ、どれも終わらないで枕元に読み散らかっている。
 そんな中、夢を見た。何かに追われて、どこかに逃げ込んでいる。それがどうやら書庫の一階らしい。追っ手から逃れ、無実を証明するために、連れ(店主らしい)は外へ出る。私はその場所で、二時間ほど一人で待たねばならぬことになった。(と思われるが、夢には解説はついていないので何故だかはわからない)
 ひととおり周りを観察して、落ち着いてくると、私は焦った。「本を持ってくるのを忘れた!!」 いつもカバンに一冊入っているはずなのに、あちこちで読み散らかしているので、持って出たカバンには一冊も本がないのだった。
 「ああ、時間がもったいない…。 何をして過ごそう」 と、うちの店の書庫(らしきところ)の一階で、私は途方にくれている。
 そこで目が覚めた。「夢か…」とほっとすると同時におかしくなった。書庫に逃げ込んだのに、読む本がないと焦るなんて。扉をひとつ開ければ、ズラリと本が積んであったはずなのに。今読みたい本以外は、何冊あってもだめということなのかしら。
 話はかわって、バラのこと。
 春に咲いてから、夏の終わりまで、花びらの数を減らしながらも咲き続け、少し間をおき、秋のバラとなってまた咲いた。少し休んでいた間に花びらの数も豪華に復活した真紅のミニバラに、あの変な夢を見た朝もなぐさめられた。季節の恵みに感謝。

2006年10月のユーコさん勝手におしゃべり
2006年9月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「おしゃべり」