ユーコさん勝手におしゃべり

3月25日
 良い天気の昼下がり。青木書店店舗には、一本の通路に二人のお客様がいらっしゃった。そのうちお一人はいつも短歌の本を買ってくださる。しゃがみこんで下のほうの棚まで吟味しているうちに低く鼻歌を唄っている。お尻をつき合わせるようにして向かい側の棚を見ていたご婦人が
 「楽しそうですね」 と声をかける。
 「人間誰でも楽しみがなきゃ ね」
 「大賛成」
と会話は続いた。私はうれしくなって、店番しながらその会話をメモパッドに写しとった。
 そのおじ様はとても勉強熱心だ。作歌には苦労もあるだろうが、「短歌を作ることは楽しみなのです」とてらいもなく言い切る。かっこいい大人だ、と思った。
 私の今日の発見は、プランターにムスカリとさつきのつぼみを見つけたこと。今年も咲いてくれることに感謝して、楽しい人生に向かって歩こう。

3月24日
 寒い冬をがまんした ごほうびとして桜が咲く。
 桜は冬が寒いほど早く咲くのだそうで、今年は例年より一週間程早く開花しはじめている。心は自然とわき立ち、旅に出たくなる。
 来週の東京での桜の花見を前に、足を伸ばして群馬の箕郷梅林へ梅見物に行ってきた。今が盛りで、目の高さに一面また梅、まだ梅。足許にはイヌフグリ、ぺんぺん草、ホトケの座、水色、白、黄色、赤紫…。どこまで見ても上に下に花々。
 満喫のあと、坂を上り、四万温泉へ。温泉につかりおなかいっぱいになった頃雨が降ってきた。しっとり濡れた窓からの景色を楽しむうちに雨はみぞれへ。そして、翌朝は、うっすら雪化粧をみせてくれた。
 帰り道、坂道を下るたびに緑は増え、すっかり下りきると桜の枝が「もう咲きたい」とふくらんでいる。
 このタイムスリップ感はやみつきとなる。2週間後にまた四万温泉へ行く。

3月20日
 店の脇のプランターで、純白のスイセンが満開になった。鼻を寄せるとよい香りがする。この2・3日の強風で、桃の花はすっかり散ったが、今まで存在を内緒にしていた桜の木々が「私はここにいる。」と主張し始めた。ふくらむつぼみの陰影で枝先が輝いて見える。
 今朝車で堀切橋を渡った。橋の上からは富士山が見える。昨日の強風で雲もなく、ビルの間からくっきりと見えた富士は真っ白で、すっかり春になった気でいた私を驚かせた。頭に雪をのせた姿でなく、純白な富士に、プランターのスイセンの色が重なった。今、日本には冬と春がどちらもいるのだと思うと、両方をぜひ見たくなる。早速今週、群馬へ梅を見に行くことにする。東京ではもう桃も散ったが、榛名山近くでは今が梅の見頃だそうだ。タイムマシンがなくっても、今の季節なら、一ヶ月の時を行き来することができる。めいっぱい仕事もしたら、さぁ出かけよう。

3月11日
 一気呵成。
 ちょっと見ぬ間に桃の花が満開になっていた。チューリップの芽も一気に伸びた。そして、昨年末横浜の実家から拾ってきたスイセンの球根につぼみがついている。春は一気にやってきた。
 街路の柳の枝にホヤホヤと、小さな芽が出ているのをみつけた。変声期の少年のような初々しさと頼りなさを感じる。
 ポプラもムクゲもまだ丸裸。春は一気呵成だが、夏はまだ目を覚ましていない、三月半ばだ。

3月8日
 葉や木々が新陳代謝を始めて、いよいよ季節が本格的に動き出した。今年買ってきた沈丁花の子は、ようやくさいしょの一つの花をひらきかけた。朝ゴミを出しに、ちょっと外へ出たら、あちらからもこちらからも世話を焼いてくれという声がかかり、プランターを一回りして、なかなか家に入れない。うれしい悲鳴だ。終った花を摘み、枯れた葉を落とし、新芽の成長に驚く。「この日を待っていたのよ」と快哉する。花粉症用のマスクの中の鼻はズルズルだけれど…。
 店を開けて、お客様からの振込用紙を見ていたら、通信欄に「庭のサンシュが少しふくらんで来ました。」という一文があった。「にわのサンシュウのぉ木ぃ~ぃぃ」という民謡が、頭に中に鳴る。黄色いかわいい花がもうすぐ見られますね。

3月1日
 冷たい雨で三月がはじまった。明日からはまた暖かさが戻ってくる。「春の周期変化です」と天気予報が教えてくれる。
 春になり、進級とか進学・昇進と新たな歩みを進めることが決まった方もいるでしょう。また、今年をもう一度足ぶみする方もおられると思います。まっすぐ伸びた枝もきれいだけれど、くねった枝を持つ幹もまた美しさがある。繰り返すように見えて、全く同じではないのだから、もう一度できる一年を充分味わってほしいと思います。
 沈丁花を買いました。木を植える余地のない小庭なので今までは人様の庭を覗き見るだけでした。しかし先日、散歩中にあるアパートの入り口に空っぽの植木スペースを見かけたのです。道路側に、石製で据え付けの土の入ったプランターがあるのですが、住民には興味がないらしく枯れた雑草がはえているだけでした。そこで「私なら…」と妄想をはじめました。半日悩んで「沈丁花、くちなし、キンモクセイの小木を植えよう。」と決めました。決めたところで詮ないことなのですが…、つい、園芸店で小さな沈丁花の苗を買ってしまいました。何とか場所をつくって沈丁花を納め、開花と香りを楽しみに日々を過ごしています。

2006年2月のユーコさん勝手におしゃべり
2006年1月のユーコさん勝手におしゃべり
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