ユーコさん勝手におしゃべり

4月25日
 もし電話がかかってきて、「ねぇ今何してる?」ときかれたら、「本に埋もれている」としか言いようのない状況の数日を過ごした。最近さわっていない棚をちょっと整理するつもりで本に手を伸ばしただけなのに-。書棚から数冊の本を降ろして今度はこの分野でデータアップの原稿書くかと思ったら、そのお友達の本がぞろぞろぞろぞろついてきて、とりあえず机上に置くつもりが、すっかり肉体労働となり、パソコンとコーヒーカップがのっているスペース以外はぐるりと本になってしまった。原稿書き用のノートを置く場所も充分になくて、すっかり使いづらい机上となった。一冊ずつほこりを掃って、奥付を調べたりしながら、「これって、つらい?」と自問してみる。答えは「ううん、どっちかっていうと、幸せ」だった。
 本は、書庫で何年でも何十年でも待つ。
 店に入ってきた本は分野ごとに分けられ、それぞれの棚に入れられる。棚の中には既に品番の付いているものもあり、その横に、あるいは上に並べられて時を待つ。すぐにたまる分野もあれば、そのまま静かに眠っているような棚もある。時々店主や私が現われて、品番の付いていない本をまとめて持って行く。棚に戻るときには整理番号がつけられていて、そのうちポツポツとそこから抜かれて、お客様のところへ行くことになる。
 書棚から抜いて整理して、再び差し込むまでの間に、一度はパラパラ中を見る。これがけっこう楽しくて、読書もいいけど、それより私は「本」という物質が好きなんだろうなと思う。
 時々問い合わせがある。「○○ありますか」と聞かれても、「ある」とも「ない」とも言えないこともある。深く眠る本の全てを目にしたことがあるわけではないし、同じシリーズの本でも、内容によってあちこちの棚に分けられて一堂に会せないことも多いからだ。スパスパ在庫整理できちゃったらカッコいいけど、古本屋は歯切れの悪いところがまたいいと、割り切って、長い目で付き合って下されば、そのうち良い出会いが訪れますよ。

4月14日
 好天の日、自転車で買い物に行く道すがら、人様の家の庭先を見ては、来年は何色のチューリップを植えようかと考える。街角の八重桜の美しさに、「これはこれは」と敬意を表する。今が見頃に違いないと、昨日の朝八重桜がきれいな足立都市農業公園へ行った。いつもは、満開ですよという新聞地方版の報道を見てから腰を上げるが、今春は、花の方にニュースが追いつかない速さなので自己判断で行ってみた。八重桜の花色の豊富さを堪能した。荒川の土手沿いの公園内の八重桜と、荒川土手に植えられたチューリップに満足して帰店、開店。
 そして今日、朝刊の地域ニュースに満開チューリップの都市農業公園の写真が載っていた。「ほうらね、ほうらね」となぜか鼻が高い気分になりつつ、早咲き遅咲き合わせて2万本のうち、ちょうど咲いてるとこだけ写っている記事の写真に、「うまいこと撮るなあ」と感心する。

4月7日
 今年も、さつきの咲く最初の一輪を、私が見ようと虎視眈々と狙っている。数日前から少しずつふくらんできた白いつぼみを毎日2・3回は点検する。真冬に量販店園芸売場の「処分品コーナー」から連れてきたパンジーやビオラも、今や盛りだが、一鉢だけ花をつけないものがあった。心配していたが、大きなつぼみがいくつも頭をもたげている。「よくがんばった」と声をかけ、開くのをたのしみにしている。
 いよいよ忙しくなってきた。毎朝にぎやかになった店の横の小さな花壇を眺めて、終わった花を摘む。春の花たちを「長く咲きなね」と応援しつつ、実は夏の花壇の設計をもう考えている。夏花の苗の広告を、気にかけている。「きれいだね、すごいね」と口で言いながら、何だか、裏切り行為をしているようで、少しうしろめたい気持ちになる。
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 …と、まぁ朝ここまで書いて、店内に入り、11:00にシャッターを開けて開店。ご近所の奥さんが「きれいね」と声をかけてくれて、おしゃべりしながらフトみると、足もとのプランターに穴—。 やられた、黄色いエリシマム(菜の花に似た多年草)。今年植えたばかりだったのにぃ。
 こういうことがあるから、ひとつひとつの出会いは大切だ。人でも物でも、少しの間でも、別れる時や使い終わって手離すときは、「ありがとう、またね」と明るく言いたい。掘りとられ盗まれたエリシマムさんも、どこか知らない新しい地面で、どうか元気に根をはれますように。
 と、いい人ぶってみても、心の底が納得しない。 「ああ悔しい!」が本音。

4月1日
 今日から4月であることを知っていたかのように、ドアを開けて外に出たら、アイビーの新芽がいっせいに芽をふいていた。表現のしようのない鮮やかな黄緑色! 昨日まで長いこと緑色のつぼみだったチューリップが今朝は、自分は赤い花を咲かせるつもりだと教えてくれる。
 4月1日、プランターを見ると、「アラ」「アレアレ」と声が出ることばかり。うれしいはじまりだ。
 3月の終わりに横浜・三ッ池公園へ桜を見に行った。公園のパンフレットに
  さくらさくらさくさくらちるさくら  山頭火
と書いてある。「桜、桜、 咲く桜 散る桜ー」とうたうように唱える。桜を見る視線の通りにうたが動くことに快感を覚える。見上げて一面の桜、風にころがる花びらとなった桜の地面。春は花がいっぱいで、心が明るくなる。    今年度もよろしくお願いします。

2004年3月のユーコさん勝手におしゃべり
2004年2月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「ユーコさん勝手におしゃべり」

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