2月23日 今日、風がとぼけるのを見た。 数日前春一番が吹いてから、ずっと穏やかだった2月の東京に強風の日があらわれるようになった。夕べは台風かと思うような暴風雨だった。一夜明けて今朝、雨はやんだがあいかわらず風は強い。先週末増殖する本のために、書庫の階段の壁いっぱいに店主が天井までの書棚を作った。本を詰めた。詰める時は、書棚の下の段に足をかけて上の段に本を入れるが、下までびっしりと詰まると、足をかけるところはない。上の本をとるためにははしごが必要だ。場所が階段なので、脚立では開ききらずに不安定となる。そこで今日ははしごを買いに郊外の大型ホームセンターへ行った。店主が運転する車の助手席に乗って、車窓に流れる景色を見ている。風が強くていろいろなものを巻き上げたり転がしたりしていた。道端に立っているお店の宣伝の旗が、風の行く方向にめいっぱいのびている。 「すっごい風だね。ホラ、旗がちぎれそうだよ」 と、私が運転席の店主に言ったら、ふにゅと旗がゆるんだ。 「あれ、今、風がとぼけたよ」 言いつけられたとでも思ったのか、旗がちぎれそうと言ったとたんに、風が少し力をゆるめたのだ。一瞬、自分と風が話をしたような気がした。 ちなみに今、書庫は新しく作りつけた書棚のおかげで、入ると木の香りがします。また、新たな棚から蔵出しの古い本を、お客様にお届けします。 2月20日 千葉の房総でお花畑がいい感じだとか、立川の昭和記念公園で梅が見頃だとかニュースが伝えている。どこかへ春を見に行きたいな、さてどこへ行こうかと考えながら近所の道を歩いていた。目の端に沈丁花の木をとらえた。「つぼみが赤くふくらんできたな」と思って通り過ぎようとしたとたん白い花がひとつふたつと目に入った。「アレ? 咲いてる」と思わず声をあげて、2・3歩逆戻り。咲きはじめの最初の花を見られるなんて、好運。まだにおいたつという程は開いていない、純白の花びらに、鼻を近づけて、確かに沈丁花の懐かしい春の香りであることを確認した。どこへ行こうかと逡巡しているうちに、もう足許に春は迫ってきた。明日も暖かいそうだから、去年刺し芽をしたアジサイをプランターに植えてみようか。 2月13日 タイムマシンは夢だった。 「もし、タイムマシンがあったら」ってよく考えた。誰でも想像したり友達と話したりしたことがあるだろうと思う。失敗しちゃったとき、ああ一瞬過去に戻れたら、あの選択をやり直せたら、と思ったことは数えきれない。理論的には過去に行くより、少し先の未来を見られる方が実現可能性が高いらしい。 先日フト、私にとって「もうタイムマシンは夢じゃない」ことに気付いた。だんだん齢を重ね、親もその周囲の人も年をとった。自分の未来が見られるようになったとして、2年後の未来にはいた人が5年後の未来には、もういないかもしれない。「ああ そこにはもういないんだ」と早めに知ったとして何になろう。例えば、塾講師をしていた頃の教え子のような年若い友人の、輝ける未来を一緒に見にいって、そこにもう自分がいなかったらどうリアクションをとったらいいだろう。子どもの頃は夢だったタイムマシン、今は、どうせいつかは行く未来なら、急いで見ることもあるまい、と思うようになった。 2月12日 男比率の多い食べ物屋と、女比率の多い食べ物屋は、カッキリわかれる。昨年末から気になって、外食をする機会があるたびにきょろりと周りを見渡して男女比を見ていた。メニューの質、量、店の雰囲気、頭の中で何となく数式が出来上がってきた。 そしてチョコ売り場は普段、女比率の高いところである。もうすぐバレンタインデーで、TVもラジオも雑誌もうれしそうに騒いでいる。けど、本当に男の人はチョコレートをもらってうれしいのか?と思ってしまう。男の人は、セント牛丼デーやセント焼き魚定食デー(ごはん大盛で)の方がうれしかないのか?などと夢見るカップルを脅かすようなことを考えてしまう。 プレゼントされたチョコレートは、結構な率で、結局女の人のお口に入っていくような気がする。ちなみに私はチョコ大好きです。昔から、チョコレートが好き、と公言しておいたおかげで、バレンタインにもあげた数よりもらった数の方が多いです。ああ ありがたい ありがたい。 2月7日 車で首都高を通った。大きな看板があり、「 って 油断大敵」って書いてあった。看板の朱の文字は日に焼けるととぶ。大切なことをわざわざ赤で書くのだろうが、赤文字は先に読めなくなる。今回の場合は、「 って油断大敵…」と続いている文字列の空白部分がまったく判読不能で逆に好奇心を刺激された。肝心なことが伝えられない看板に、いろいろ文字をはめて楽しませていただきました。 その時運転は店主であった。店主は長くゴールド免許を持っている。16歳からバイクに乗り、かっとばし人生を送ってきた店主を知る人は皆「まさかぁ」と言うが、本当だ。その店主の運転する車がトンネルを走行中、店主が「白バイが来るぞ」と言った。「オレって、白バイ見つけるのうまいなぁ」と自賛した。しばらくすると本当に右後方から白バイが来た。「斜め前の車が捕まるぞ」とつぶやくと、白バイは赤色灯をひらひらさせはじめ、右前方を走っていた車が止めさせられた。かくして私は彼のゴールド免許の秘密の一つを知った。その後何件もスピード違反で捕まっている車を見た。油断大敵、気をつけましょう。 2月2日 時々小さな事件がおこる。ちょっと身辺バタバタして、納まる。少し静かな暮しを保とうと思っても、事件の方からこちらにやってくる。 昨日、店の窓際の席で仕事をしていたら、外で「おめぇ何してんだよ」と声がした。「店の前でケンカはするなよ」と心の中で思ったとたん、どなった方の男の手がもう一人の男の方に伸び、ガッシャーンと大きな音がした。店のドアのガラスがこなごなに砕けていた。すぐに二階にいる店主を呼び、入り口に行くと、「すいません。オイ、おめぇ弁償しろよ」とどなった方の男性がもう一人に言っている。「こいつがよろけて、ガラスにぶつかったんで」なんて店主に言い訳をしながら、しきりに弁償しますと繰り返す。店主は「大丈夫ですよ、ケガはなかった?」と言っているが、店の入り口はガラスだらけでとても大丈夫そうではなかった。おとなりのお弁当屋さんのご主人が散らばったガラスを見て、「ダンボールいる?」と声をかけてくれる。「イヤ、ありますからいいですよ」と言って、店にあったダンボール箱を組み立て、ガラスを片付ける。幸いぶつかった人にケガはなかった。ガラスを片付けている間に、さっきどなった方の人がケータイから警察に電話をして、おまわりさんが二人来る。まぁケガ人もなく、わざとじゃないから事件性もなしということで落着。昨日は日曜日で、近所のガラス屋さんがお休みだった。翌日来てくれるということで、その日は、ドアに大きなビニールをひろげてはって、しのいだ。昨日はおだやかに晴れた日曜日で、静かに、お客さんも少なかったのに、何故か、入り口にガラスが散らばり店がバタバタしている間だけ、バタバタと均一の本を買っていくお客さんが複数いた。いったいどういうことだ。ちょっと物音がしたので見に来たから、ついでに本も買っていこってことかな。ガラスを割った人は、よく近所で見かける人で、時々あいさつもする。おまわりさんの聴取に「住所は不定」と答えていた。いわいる「住所不定無職」の人であることを私ははじめて知った。店主は「悪い人じゃないんだ。弁償ったってかわいそうだよ」と言っていた。月曜日の今朝、ガラス屋さんが来たが、ドアのサイズが大きめなので手持ちのガラスでは合わず、修繕は明日ということになった。雨も降り出して本日は休業だ。とりあえず、明日になればもと通りだ。店は下町の飲み屋の多い商店街にあるので、夜など結構にぎやかに小事件がある。最近町内で放火事件もあった。火事とケンカは江戸の華っていうけど、花よりダンゴ、平和が何よりである。 学校を卒業して堀切に来るまで、私は郊外の住宅地にすんでいた。少し前まで田畑がほとんどだったけど今は賃貸アパートと一般住宅がならんでいます、というような土地で、周囲は勤め人か教師の家が大半だった。今思えば静かだった。新聞に事件は毎日たくさんのっているけれど、自分の周りでは、きっとずっとドラマのような事件はおこらないのだと思っていた。今回のガラス事件を当事者としてみながら、そんなことを思い出した。時々起こるドラマのエピソードシーンのような小事件を、びっくり顔で見ながら、事件はおこるところでは自然におこるんだと認識を改めている。 2月1日 2月です。2月は冬…ですか? 風はまだ冷たいけれど、2月になると春を感じることがふえます。 今日、いつも行くスーパーへ自転車を走らせていると、途中の駐車場の一角が明るくなっていた。車や人に踏まれて地面にはいつくばるように葉を拡げたたんぽぽに、あでやかな黄色の花がいくつも群れ咲いていて、「春だ、春だ」と心が躍った。地上は寒くても、土の中は確実に春に向かって変化している。芽が出る、ふくらむ。もう桜もジャスミンも、着々と花芽をふくらませている。 ああ あそこにも、ここにもと、街を歩いていても楽しみがたくさんみつかる季節です。
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