ユーコさん勝手におしゃべり

5月11日
 風薫る五月がやってきた。
 去年は天候不順でとうとう使うことができなかったこのことばを、今年は使うことができる。
 天気と身体が許せば、忙しくあちこち飛び回っている、徒歩で、自転車で、バイクで車で。目的地に着く前にも、ふわりとサラッと花の香りが飛んでくる。
 「ああ何だろう、嗅いだことのある匂いだな」と思いつつ、乗り物は進んでゆき風薫る中にとけてゆく。
 草刈り作業中の土手や公園で、ムクドリたちがトラクターの後を追いかけてせわしなく地面をつついている。掘り起こされた土の中に虫がたくさんいるのを知っているのだ。草刈り機の通ったあとにもハトたちが群がる。
 足立区青井、葛飾区奥戸のバラ園に自転車で行った。まるでミツバチのように花に鼻を近づけて芳香をいただく。それぞれの園で一匹ずつ、てんとう虫を連れて帰って、小庭に放った。信号待ちの歩道の脇の雑草で見かけたサナギも二つ仲間入りした。
 小庭の作業もこれから忙しさを増し、生きていることをナマで感じられる季節になる。
 喜びも、めんどくささも、みんなまとめて、生きている、ということだ。

5月4日
 恩田陸『Spring』を読み終えた。
 いつになく忙しい4月だった。物理的に時間がなかったこともあるが、この本は意図的にゆっくりと、数頁で本を閉じては、夜半、眠る前のひとときを味わって読んだ。翌日も反芻して楽しみ、肉体的に余裕のある夜にまた頁を進めていった。
 とうとう終わってしまい、今最初の一頁目から再読している。
 内容については(良かったに決まっているのだから)ともかくとして、心に残るのは、主人公のメンターといえる年上の人の死の描写だ。
 「そして誰もいなくなった…」という世界がいつか近い将来やってくるのだなと身につまされた。
 新聞の訃報欄に並んだ人たち
 最近見かけないかつて常連だったお客様たち
 さまざまな表情を脈絡なく思い浮かべているうち、好きだった作家のことに思い至る。
 「もう新作は読めないのだ」という諦観がよみがえってくる。
 仕事柄、少し昔の本を読むことが多いのだが、自分より長く生きて長く面白いお話を書ける人を捜しておかないといけないなと思う。
 そんなことで今週も新刊の書評欄に目を通す。 

4月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「おしゃべり」