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6月29日 早朝、セミの声を聞いた。ミーン ミーン ミーン。 今年初めてだ。下町の駅の周囲に、街路樹やプランターの草花はあるけれど、土の地面はない。 うちの店の裏にある地区センターの、大きな欅の木の下は、かろうじて昔からの地べたである。ここで毎年律義に育つミンミンゼミ一家がいる。 「はい。夏本番でございます」と告げに、地面からやってきた。 セミは少なくなったが、鳥は増えた。まだ電柱の林立する地域だから、変圧器の下でスズメが営巣してかわいい声を放っている。 ちょうど店の正面と、店の横側の各電柱に一軒ずつ巣がある。鳴き声のトーンが少し違っていて、私にも聞き分けられるようになった。そうやって鳴き交し自分の巣を間違えないように出入りしているのだろう。今日も三階の高さの変圧器の下から「チュルチュル」と声がしていた。 朝プランターの花摘みをしていたら、白い日日草の花びらの上に小さなカマキリの赤ちゃんがいた。小さくてもカマキリの形をしている。一匹だけ、いったいどこから来たのだろう。プランターを並べた小庭の中で、いろんな命が少しずつ動いている。 堀切菖蒲園駅舎のツバメはあと三羽。巣からはみ出すほど体は大きくなった。先に巣だった子たちが電線の上でうち騒ぐ中、エサが来るのを待っている。 でも、道を行くと電柱地中化計画の立て看板が目に入る。電信柱がなくなったら、スズメのお宿も見られなくなるのかな。 便利と引き換えに、一抹さびしい。 6月22日 今年のカメは難産だ。 去年は6月15日にポッコリ産んだ。今年も6月初めから市販のエサを食べなくなり、エビやアサリだけを気まぐれに少しずつ食べるようになった。 足の付け根はふくらんで、たまごがたくさん入っているのがわかる。 でも出てこない。朝晩懸命に後ろ足をあおいで産卵体勢をとるのに、不発続きだ。 なかなか暖かくならなかった春と、梅雨を通り越して急激にやってきた夏日が、彼女の体調にも影響しているのかしら。早く身軽になれるといいな。 一方、堀切菖蒲園駅舎のツバメは、絶好調。今年何度目の子育てだろう。巣の上に、外側が黄色で中が赤いとても小さな二重丸が、並んで親鳥が来るのを待っている。 店の前のプランターで、桔梗の花が咲いた。 つまりもう、すっかり夏なのだ。6月ということを忘れる6月が、進んでいる。 6月5日 書庫に本をとりに行く。書庫の隣家の4・5歳の男の子が、ママとおばあちゃんと一緒に家の前で遊んでいた。 「こんにちは」 とあいさつすると、 「ダンゴムシさがしてるの」 という。 おばあちゃんが、 「ダンゴムシなんか、昔はいっぱいいたんだけどねぇ」 というと、男の子もかわいい声で、 「ムカシはいっぱいいたんだけど、イマはいないの」 と呼応する。 大人三人は顔を見合わせて笑ってしまう。男の子は続けて 「ムカシは幼稚園にいっぱいいたんだけどねぇ」 と申す。 なるほど、彼のムカシは今日のお昼くらいまでで、イマはイマこの瞬間なのだなと、納得した。 かわいいダンゴムシ問答であった。
5月のユーコさん勝手におしゃべり |