ユーコさん勝手におしゃべり

8月22日
 残暑お見舞い申し上げます。
 久しぶりに荒川土手にサイクリングに出る。
 猛暑続きの昨日までより少し気温が下がったので、店主と二人で自転車を出してみたのだが、雲のご機嫌を見ながらの出発となった。
 土手の上の空は広い。もくもくと白い雲と、重ったるい灰色の雲の隙間には、天高くきれいな青の空がある。太平洋を日本に向かって北上してくる熱帯低気圧と、元気に張り出した高気圧のせめぎ合いが、さまざまな色と形状の雲をつくっていた。
 微風だが、風向きをみて、店主は海に向かって走り出す。川の対岸で陽を浴びてやけにくっきりと浮かび上がったスカイツリーの背後には、青みがかったグレイの雲がむらがって怪しい美しさだ。土手に三脚をたてて、それを撮影している人がいた。
 海に向かってしばらく進んだが、前方は黒い雲におおわれている。小さな雨粒も落ちてきた。
 「海は雨だよ。引き返そうよ。…でも対岸はお日様があたってるね。」 というと、店主は空を見て、
 「あの橋を渡ろう」 と言って小松川橋を渡った。小道を通って、旧中川土手に出る。不思議なもので、こちらは雨の気配がない。
 のんびりとサギたちが川面を眺めている。アオサギ、コサギ、ダイサギ、そしてそのうちの誰の子かわからない茶色の羽のヒナもいる。その先にやけにひょろりと細いサギがいた。ポヨポヨのグレイの羽はヒナから一人前への途上で、ちょっとだけみんなと離れて一人立ち気分を味わっているようだ。
 今日の雲と同じように、サギのコロニーにはいろんな色がまじり合っていた。
 人の背丈を越えすっかり種を実らせ首を垂れるヒマワリの下で、黄花コスモスが咲いている。こんなに暑くても、地面には少しずつ秋が忍び寄っていた。
 そして帰る方向に重い雲が見えたのを機に帰途についた。気温も上がってきて、帰宅後自転車をしまってすぐにシャワーを浴びて汗を流した。シャワーの音とともに外から雨の音が聞こえだし、あっという間に土砂降りになった。
 「ラッキーだったね」「雲読みがあたったね」 と店主と顔を見合わせた。
 8月は、2日が満月だった。夜半、南の窓の網戸越しに網戸の繊維に従った放射線状の光が四方八方に輝きを放っていた。そっと網戸を開けると、月の右下にほくろのようにテン、と土星が見えた。
 次の満月は31日だ。
満月に始まり満月に終わる、特異な気候の2023年8月であった。

8月13日
 雨の日曜日。
 8月に入ってからずっと日本のどこかに台風の影があり、ハラハラしながら時を送った。
 発送した本の動向を追跡システムで追う。
 7月30日に沖縄に送った書籍が、昨日やっと「お届け済み」になり、ほっと一息ついた。
 7月から8月にかわっても、あいかわらず猛暑と熱帯夜の続く日々だが、うるさいほど鳴いていたセミの声がおさまり、朝晩は「リリリリリリ」と虫の声が聞こえてくる。
 建物と道に覆われた街にわずかに残された街路樹の根元の地面での出来事だ。その土の中はいったいどうなっているのだろうか。
 人が排気ガスをまき散らしても空が宇宙とつながっているようには、マンション脇の小さな庭や街路樹の根元の土は、深くの土壌とつながることはできないだろう。それでも置かれた場所で一心に、季節を守って私に時を教えてくれる。先週小庭にショウリョウバッタの赤ちゃんを見かけた。
 「今年も会えたね」 と声をかけたが、知らんぷりでどこかの葉陰に隠れた。

7月のユーコさん勝手におしゃべり
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