ユーコさん勝手におしゃべり

6月22日
 「降りますねぇ」
 「うみましたね」
 朝サーっと降った雨が小やみになった時、外に出ると、店主とカメのお友達の会話が聞こえた。
 「話がかみ合わない。聞き間違いかな?」 と思っていると、おじさまがカメのいる小庭の柵の下を指さして、
 「産んでますよ。 さっき通った時、産卵しているのを見たんです。」 と言う。
 「ええっ。全然知らなかった。ありがとうございます。」 と言ってカメの日向ぼっこ用の踏み台を持ち上げてみると、白いたまごがみえた。産みたてたまごが14個もあった。
 産卵中の姿など飼い主でさえ見たことがない。毎朝早くにここを通り、日に何度かカメとあいさつを交わしているカメの親友の大発見である。水槽に入っていたカメを水から出すと、まだお尻を持ち上げて踏ん張っていた。今なお腹の中にはたまごがあり、今年はもう一・二度産卵があるだろう。
 ひびの入っていたものを捨て、きれいなたまごを水を張ったプラスチックケースに入れて、カメのそばに置いた。
 エサとごほうびのアサリを完食しカメもすっかり落ち着いた雨上がり、散歩中の近所の保育園の子たちが店の横を通って歓声を上げた。
 生まれることのない無精卵だが、カメの産卵は命のいとなみの一端をみせて、老若男女を笑顔にする。
 「この子、普段はほとんど笑わないんですよ」と保育士さんが笑顔の子どもの写真を撮っていた。今日の保護者さんへの連絡帳に載るのかな。

6月13日
 「にわかには 信じがたい。」 きっぱりと言う老婦人の声が聞こえた。
 夕方、店先で閉店作業をしていると、声の主が自転車を押して歩き、その両脇にランドセル姿の姉弟が歩いてくるのが見えた。
 私立小学校に通う孫たちを駅までお迎えに行って、家に帰るところなのだろう。男の子には何かやりたいことがあり、それをするために、交換条件を出したのだ。
 「にわかには、信じがたい」
 「でも、ちゃんとやったら、2時間 いいでしょ」
 といった話をしながら、店の前を通り過ぎて行った。
 ゲームか何かしたいのかな。お姉ちゃんは傍観者を決め込んで何も言わない。
 がんばれ少年。達成すれば、自由な2時間が待っている。
 交換条件がどんなことだか、彼が何をしたいのかはわからない。でも、「にわかには信じがたい」ということばのインパクトに押されて、見知らぬ少年の後ろ姿を、無言で応援した。

6月12日
 6月は雨ではじまった。台風と梅雨の影響で、晴天は二日と続かない。
 雨の月曜日、店主と二人で、上野に映画を見に行った。
 是枝監督の『怪物』である。前評判にたがわぬ秀作で、映画館を出た後も、内容や映像についての話が尽きなかった。
 上野へ出れば、帰りは「みはし」本店の甘味と相場は決まっている。映画の話をしながら順番を待ち、テーブルに着くと、メニューたてに季節限定の「若桃あんみつ」の写真があった。迷わずこれを注文する。
 若桃は、小さな青梅のような見た目で、甘く煮てあり、食感はサクッとしている。美味!!
 これに出会えてよかったと、うれしくなった。帰宅して調べてみたら、「みはし」で若桃が食べられるのは、4月から6月上旬と書いてあった。ギリギリラッキーである。また来年も会いたいものです。
 映画は、坂本龍一氏の音楽が秀逸だった。また主役の子役二人が良くはまっていて、是枝監督の人を探し出す力の大きさを再認識しました。

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