ユーコさん勝手におしゃべり

5月29日
 カメ産卵。
 一週間ほど前からエサを食べなくなり、だるそうにしているので、「つわりかな」と思っていたのだが、今朝、小庭の柵の間から道路にコロコロと卵がころがり出ていた。柵内に残っていた数個と合わせて全部で9個ある。
 早朝に産んだばかりで皆きれいだったので、水を張ったプラスチックびんに入れてカメのそばに置いておいた。
 さっそく道ゆくカメのお友達(飼い主は知らないが、いつもカメとあいさつを交わしている方々)が足を止め、カメをねぎらっていた。
 5月中の産卵は初めてのことで異例の早さだ。今年は春が早く来た。3月の気温は高かったが、その後は天候不順で、各地で地震も観測された。
 いつもなら口をついて出る「風薫る五月」という文言を一度も使わなかった不思議な5月だった。
 猛暑と雨天の合い間をぬって、バラの芳香を嗅ぎに横浜へ前橋へと出かけ、谷川温泉にも浸った。各所で博物館を巡り、切れ切れの知識を得ては、それをつないで呑み込んだ。
 でもどれもその日1日の単発行事で終わってしまい、美しい流れ(メロディ)としての五月を実感できなかった。
 そんな月末、カメの産卵は思わぬごほうびとなった。気候変動なんかに負けずにそれに対応して生きる強さが、野生に近い彼女にはあるのだった。
 今日、駅舎にツバメを見た。さいしょのヒナたちの巣立ち後、崩壊したままだった巣をせっせと修復していた。
 互い違いにやってくるつがい以外にも、数羽がそばを飛んでいる。親鳥の後をついて飛んで修行中のヒナたちを、ほほえましく見た。
 雨続きの最終週だが、5月はたくましく終盤に入った。

5月23日
 駅舎のツバメが巣立った。
 堀切菖蒲園駅前で信号待ちをしていると、ツバメたちの声がした。見上げると巣はカラ、どころか既に崩壊して地面に土くれが落ちていた。
 周囲を見渡すと、あちらの電線、こちらの立看板に、ツバメの姿がある。皆飛べるようになったのだ。
 5月19日に同じ場所で、最初の二羽の飛行を見た。巣からほんの数十センチ先の柱までだが、ヒナにとっては大冒険だ。何せ駅のガード下には、樹木の枝の様な近場の止まり木はない。巣はチビっ子たちで満杯で飛び出たものの容易に戻ることもできず、信号を渡った私が郵便局で用事を済ませて、また信号を渡って帰って来た時も同じ場所にじっと とどまっていた。
 親鳥は巣にいる子にも近くに出た子にも、せっせと給餌に通っていた。
 あれから五日目、今日で全員ヒナ卒業である。皆上手に飛び回って、どれが親やら見分けがつかない。
 そしてツバメ夫妻は、次の托卵の為に巣を再建することだろう。
 あじさいが色づきはじめて、今年も菖蒲まつりがやってくる。そういえば、毎年、駅前に建つ菖蒲まつりの立看板の上は、子ツバメのかっこうの止まり木となっているのだった。

5月12日
 朝、小庭の花柄摘みをしていると、小学1年生の女の子とパパが、向こうから楽しそうにおしゃべりしながら歩いてきた。真新しいランドセルの女の子が
 「今日、学童に寄ってから学校に行く。
 なんでかってゆうと、体操服が学童にあるから。」
 「忘れ物 したから、だよね」
 「…」
 女の子は黙ってしまい、そこから無言で私の背後を通り過ぎて行った。
 近くの小学校の学童保育は学校内にあるので、たぶん入る門が違うだけだけど、パパになんて言おうかと女の子は随分考えたんだろうな。

 言わでものことがある。人の会話を傍観者として聞いていればよくわかる。
 きっと私も…、と自分の来し方を反省する。

5月11日
 ツバメの子の顔が見えた。
 堀切菖蒲園駅ガード下の巣は、今まで親鳥がもぐって給餌していたのだけれど、今朝はヒナが小さな頭を並べていた。にぎやかな声でエサをねだり、親ツバメは忙しそうだ。
 いろんな方面に虫取りに行っているはずだが、出入りの方向や角度はいつもほぼ同じラインで、ある地点から方向を変えている。飛行場から離着陸する飛行機と同じ原理なのだろう。
 堀切菖蒲園に散歩に出ると、「5月9日一番花が開花しました」と掲示があった。
 園内に入ると、足元の地面でスズメが三羽、「ジジジジジ」と鳴き交わしていた。見た目の大きさは同じだが、一羽は親で二羽は子どもらしい。遊びに出られるようになったけれど、まだエサはもらっていて、親鳥の口元を争ってつついている。
 巣立ちまであともう少し。今の人間でいえば、中学生といったところかな。
 一番花だけでなく、いいもの見られて、得した気分で帰宅した。

5月6日
 明日はなくても、花は咲く。
 ゴールデンウィークもおわって、小庭の香りの花はジャスミンからハニーサックルにかわった。そろそろ夏の花壇に植え替えをしようかと、購入する苗の数など算段している。
 けれど、毎日花柄摘みをしているビオラたちは、今日抜かれてしまうかもしれなくても、明日咲かす花の準備をおこたらず、次のつぼみをふくらませている。
 昨日、能登半島で大きな地震があった。花柄摘みをしながら、あの地でも花は今日も咲き続けているだろうと考える。
 店に入って書棚を見る。店から二階へ上がる階段に、雪の回廊のように天井まで積み上がった本を見上げる。
 自分がいつか退職するまでに片づけきれないとしても、明日何かの事変で書棚が崩れるかもしれなくても、今日も一冊一冊手に取り、手入れをする。
 花も人も同じように生きている。もう少し、小庭は春を保たせようと、植え替え予定を先延ばしにした。

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