ユーコさん勝手におしゃべり

2月23日
 今日は所用があって、車で江戸川の土手道を走り、川を渡って埼玉県三郷方面へ行った。陽を浴びた菜の花が土手を明るい黄色に染めていた。
 用事を済ませて、夕食にそば屋へ寄る。店を出る時、のれんをくぐると、目の前にプラネタリウムの解説画像の如く くっきりした月と星が広がっていた。時刻は6時半過ぎだった。
 天空に平たいお皿を置いたような三日月。そこからこぼれ落ちた金平糖のような星が二つ。
 月と二つの明るい星が、一直線にまっすぐ並んでいる。右下に、まるで子どもの書く星の絵のように光り輝く金星、そのななめ左上には、輝く星の形はそのままに金星をひとまわり小さくしたような木星、そのまた左上に生成り色の上品なお月様がいた。
 車に乗って再び江戸川土手に向かう。土手の上の空は広い。まだ早い時刻で、他の星はなく、川を越えた西側、柴又方面の空に、月と、そこからこぼれ落ちた二つの星があった。
 星と星の間を、時折飛行機の灯りが通ってゆく。
 7時ころまで、夢のような光景と併走した。橋を渡り車が街場に入ると、空は急激に狭くなり、やがて金星は建物の下に見えなくなった。
 帰宅後、夜空の余韻に浸りながらカレンダーを見ると2月は残り1週間を切っていた。
 机の引き出しを開けて、プラスチックケースに入った自分用の小さなお雛様を出し、いただきものの綺麗な菓子箱の上に並べた。

2月22日
 沈丁花のさいしょの一輪をみつけた。
 今朝書庫に本を取りに出た時、書庫の隣家の玄関先の一鉢が目に入った。まだ弱い日差しの中、つぼみのふくらみに春を感じていると、枝のてっぺん近くに純白が見えた。じっと探しても、開いているのはそのひとつだけだった。
 南向きの鉢のさいしょの一輪に出会えて、仕事の励みをもらった。
 道を挟んで北向きになるお向かいの庭の沈丁花は、赤いつぼみを固く閉じている。これからしばらく、沈丁花の春を楽しめる。
 本を抱えた帰り道、沈丁花のお宅の脇路地に猫が一匹いた。
 うしろ足を体の後ろに回して高く上げて、こっちを見ている。たぶん身体のお手入れ中に視線を感じて、そのでっかい顔をあげたんだろう。
 顔のてっぺんからまっすぐ うしろ足が突き出ているというありえない姿だった。
 2月22日はニャンニャンニャンでネコの日だそうで、思いがけないサービスショットをいただいた。

2月17日
 先日、休日をとって店主と一泊旅に出た。
 何日も前から気象情報を見ては、日時と場所を組み合わせ、直前まで天気予報を確認した。店主は、道を綿密に調べ、「計画を立てるところからが旅」と心得ている。
 何ごとも行き当たりばったりで、どこにいて何を見ても 何かしらは新しくておもしろいよと思う私とは、水と油ほど違う。
 そんな私には旅程は組めないので、旅はいつも店主の調査メモに従って決行される。(しかも臨機応変、何パターンも用意されている。)
 今回、行き先は箱根である。雪の心配があるため、山には登らず、途中観光しながら麓の箱根湯本まで行く。
 「晴れ」マークの天気予報を幾度となく確認して車に乗った。しかし、東京湾にかかるゲートブリッジの上から見ると、行く手の山々には明らかに灰色の雲がおおいかぶさっている。晴れていればくっきり見える富士山は、どこにもいなかった。
 神奈川県二宮町で車を降り、菜の花で有名な吾妻山公園の山頂まで歩く。ハイキングルートには八重咲の水仙がいい香りを放っていたが、時々あられが降ってきて、コートにパチパチとあたる音がする。
 山頂は一面の菜の花であざやかな黄色に染まっていた。丸い菜花に鼻をうずめると、モンシロチョウになった気がした。まだ蝶もてんとう虫も姿を見せない早春、降ってくるものもあられから雪まじりになってきて、早々に下山した。
 箱根湯本では川土手に河津桜が咲いていた。コロナも収束してきて、たくさんの観光客で箱根の街はにぎわっているけれど、ピンクの桜は、氷雨に濡れて淋しそうに見えた。
 ゆっくり温泉に浸かってぐっすり眠った二日目、TVの天気予報に映る東京は快晴だったが、小田原はこの日も雪がちらついていた。
 二宮尊徳の足跡をたどり、小田原フラワーパークの梅園に寄る。梅に雪は案外似合う。もともと二月に咲くことへの覚悟が、梅には宿っているのだろうか、と思う。
 この日は早目に帰路につくことにした。南岸低気圧は予報が難しいとは、よく気象予報士さんたちが言うことばだが、今回その通りで、行った先だけ雪雲がかかっていたようだ。
 東京が近づくにつれ空は明るくなっていった。でも帰り着いて車を降りると、よく晴れてカラリと乾いた東京の空気と風は、雪の小田原よりずっと冷たかった。
 予想外の雪は、冬と春の境い目を楽しむ旅のよい思い出になった。
 帰宅翌日、一日の仕事を終えると、目の奥に強烈な違和感を覚えた。そういえば、沿道のあちこちで全体茶色く花粉の準備万端になった杉の木立を見たな、と思い出す。
 人生は悲喜こもごも、花の便りと共に、花粉症の季節がやって来たと、身体が教えてくれた。

1月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「おしゃべり」