ユーコさん勝手におしゃべり

10月24日
 朝晩の冷え込みがはじまり、よくがんばった夏の花たちも衰えをみせてきた。小さなひまわりやサフィニアを抜き、ビオラの苗に植え替える。
 9月末に種をまいたキキョウは全滅してしまった。小型のでんでんむしや青虫のフンをみかけるので、おいしい若い芽は皆食べられたらしい。かわりにいろんな蝶々が訪問してくれているから、許す。春に種をまいたコスモスは、まだ花が咲かない。先端に極小さな青虫がいた。花芽を食べちゃったのかも、と思いながら、虫取り用の箸でつまむ。もしかしたら遅咲きなのかと淡い希望を抱いて、まだ抜かずに残しておく。
 全滅キキョウの跡に、ムスカリの球根を埋めた。春のミニチューリップとムスカリの共演に期待する。
 日日草は元気に毎日花をつけているから、温存。10月が温暖だったので、今年は植え替え時期が迷走して、11月にもつれ込むことになった。おじぎ草もピンクの小さな花火のような花をポンポンと断続的に咲かせている。
 飼いカメはいつも、おなかをすっかりカラにしてから冬眠する。元気に動き回っているが、もう何も食べずに、内臓は冬眠準備に入った。秋口から、「キュー」とかわいい声で鳴くのは、おなかの空気をぬいているらしい。
 今週20日は満月だった。晴れた空にみごとな満月が浮かんでいた。
 四季がごちゃ混ぜの季節の変わり目、月が、秋になった、と教えてくれた。

10月19日
 「船が来るぞぉ」
 昔波止場で港湾の人たちが叫ぶリズムで、私の頭の中に
 「本が来るぞぉ」
 と声が聞こえる。大口入荷予定の数日前、店主が「ここの本を、あちらへ移動して、こちらの本は詰めて凝縮すれば、そっちのスペースに収まるから、その場所にこれを積む。」とやって来る書籍の置き場確保の計画を作る。
 店内も書庫も、それ以外の建物内も隙間なく本で埋まっている、ように見えるが、車一杯分ならうまいこと納まってしまう。本は縮んでくれるわけでもなく、たためるわけでもないのに、収めれば納まるのは不思議なことだ。
 分野別に分けられた後の本の行き場は確保できた。しかし、箱に詰められた本たちは、まだ行き先を知らない。
 分類前、本たちがまず行くのは階段だ。階段は建物の中で常に一定の空間を持っている。広いにこしたことはないが、人間さえ我慢すれば、このスペースは使える。 古本屋暮らしをしていると、年のほとんどを狭い階段で過ごすことになる。
 たまに本のない時 階段を見下ろすと、シンデレラ姫になった気分になり、踊りながら階段を降りたくなる。
 そして今、階段は普段の三分の一の幅しかない。上り下りのたびに新着の本の背を見るので、いつの間にかある程度インプットされていく。
 これが書棚に吸収されてゆくのだ。
 売れて去っていく本と入ってくる本、新刊屋さんと違うのは、そのスパンが10年20年、時によっては40年50年と長いことだ。スパンは長くても、本は絶えず動いている。
 冒頭に、「船が来るぞぉ」と言ったけれど、本はまるで水のようだと思う。常にその場にあって、体系を変え移動し、そして見かけよりずっしり重く、破壊力がある。でも現実の水とは、相性が悪くて、濡れると元に戻らないけれど。
 今、滝のように上から下まである本も、いずれ、書棚か書庫へ、そして新たなお客様のもとへと流れつたってゆく。
 誰かの大切が、違う誰かの大切となる。

10月17日
 「今日で夏はおわりだな」
 よく晴れた11日月曜日の朝、店主が言った。前日は寒気が来て、夕食に今季初の鍋を囲んだ。翌月曜はカラッと晴天と予報が出て、店主が海までのサイクリングを計画したのだ。
 腕に日焼け止めを塗って、半袖で自転車にまたがる。
 風は南風。風に抗って荒川土手を海まで行けば、帰りは風にのって滑るように帰宅、という筋書きだ。
 川沿いを走り、橋を渡って木場から若洲ヨットハーバーの脇を通る。海風が吹いて、気温が上がってもサラリと汗をとばしてくれる。ゲートブリッジの下で、はるか頭上の車列と、その下の船のゆきかいを眺めて一休みする。
 再び荒川に戻り、小松川千本桜・大島小松川公園に寄る。コキアがふわりと色づき、秋バラがほわりと香る。秋の景色の中、さいごの夏の陽ざしを浴びた。
 それから、思惑通り風にのって荒川をのぼり、帰宅した。この日気温は29度を超え、真夏日に迫ったと天気予報が告げた。
 翌火曜は一日雨で、風も南風から北風に変わった。
 金曜日の朝、天候が良いので再び自転車にのった。
 この日は中川を上り、江戸川土手へ入る。柴又の寅さん記念館、矢切の渡しの前を通って都立水元公園へ。空気はさわやかで、ひそやかな十月桜が秋風によく似合う。
 午前中に帰宅して店を開けた。天気予報が、今後の気温の変化と、来週は木枯らしが吹くやもしれぬという予想を告げている。
 今、寝室の足元には、タオルケット、夏掛け、毛布、ふとんと、夏から冬までの全ラインナップがうずくまり、ソファーには衣類がにぎやかに散らかっている。
 季節が音を立ててズンズンと進んだ一週間、貴重な晴れ間を大事に使って、いつもより少し長く居た夏と、しっかりあいさつを交わすことができた。
 今朝はまた、冷たい雨が降っている。

10月7日
 てんとう虫採取。
 黄色いてんとう虫の実物をはじめて見つけた。
オレンジ色や黒色のてんとう虫はアブラムシを食し、黄色いてんとう虫はうどん粉病などの菌を食べる。 知識としては知っていたが、見たことはなかった。中くらいのと、すごく小型の2匹を、一人興奮しながら持参の不織布に入れた。
 晴天夏日の続く週間天気予報に、一日だけポッと曇天涼風予想がついた。前日から用意をして自転車で都立水元公園へ向かう。小さな橋を渡ると県境を越えて埼玉県立みさと公園に入る。
 林の中に敷物をしき、折り畳みイスを並べた。近くの草叢をのぞく。最初はいつも、「いないな」と思う。
 それでも じっと見ていると、ありんこが歩いてきた。
 アリはアブラムシが出す甘い汁が好物なので、アリがいる所にはたいていてんとう虫もいる。葉の裏にてんとう虫の最初の一匹を見つけると、ボーっと全体を見ていた目にスイッチが入る。
 それまでモノクロだった視界が急に鮮明カラーになったように、他の虫たちや小さな蝶が次々見えてくる。
 あぁ、ここにもそこにもいるじゃない、とつやつやした橙色や黒色に水玉模様の成体と、黒とオレンジ色の幼虫、さなぎも発見する。
 黄色一色のてんとう虫を見つけた時はうれしかった。
 木の葉の色も夏とは違う。銀杏の匂いがどこからかかすかに漂ってくる。紅葉に向かってゆく気配とともに、夏眠明けの てんとう虫の秋 を実感した。

10月6日
 秋の爽やかな風と、戻ってきた夏の陽ざしがまじり合う。湿度が下がるだけで、同じ気温でも夏とは体感が全く違う。
 ただ自転車をこいでいるだけでも、何度も深呼吸をしてしまう。
 いったん咲き終えたキンモクセイが、再び香りだした。もう終わったと思って刈り込んだ夏の草花が、枝先にびっしりと花を咲かせている。
 10月は台風ではじまった。コロナ緊急事態宣言から解放された一日は、終日雨が降った。
 翌日から晴天が続き、来年の為にミニチューリップの球根を植えた。少しずつ秋冬の花壇に変えていこうかという矢先にやってきた夏日の連続に、とまどいつつ、コロナとオリンピックで無かったことになってしまった夏を取り戻した気分でもある。
 明日はお弁当をもって、大きな公園へ行こうか。

9月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「おしゃべり」