ユーコさん勝手におしゃべり

9月25日
 今年、秋は忍び寄らなかった。
 音もなく忍び寄り、「目にはさやかに見えねども…」とはいかず、音高くガサゴソと踏みこんできた。9月になると急に寒くなり、いきなりの大雨、暴風が夏を飛ばした。
 潮目が変わったのは、9月も半ばを過ぎた19日、台風一過の日からだ。近年台風が過ぎてもグズグズと雨雲が残ることが多かったので、久々の台風一過の晴天をみた。
 満月になんなんとする空を邪魔するかと思われた台風が過ぎ去り、月の麗しい季節がやってきた。
 夜、ほどよい涼風が吹く。南の窓を網戸にして、窓際に横になる。小さな読書灯をつけて天を仰いで本を読む。眠くなり、「今日はここまで」と本にスピンを挟んだら、月がこっちを見ていた。
 先月、実家の父が亡くなった。半年前倒れて入院するまでは、一人暮らしだった父のところへ、週に二回通っていた。葛飾から横浜の実家まで一時間半の小さな旅は、考え事をしたり本を読んだり、結構充実した時間だった。
 父の家からバス停までは、月を見ながら歩いた。冬になってオリオン座があらわれたら、見るたび最晩年の父を思い出すだろう。
 9月20日もよく晴れて、月は輝いていた。
 21日の中秋、周りに雲を従えて、それでもそこだけくっきりと満月が輝く。
 あわただしく過ぎた9月を、きれいな秋の夜空がなぐさめてくれた。

9月14日
 街はキンモクセイに席巻された。数日前には、「ア、咲いてる」と発見感覚だったのに、今日はもう自転車で走ると、数分おきにキンモクセイの芳香に包まれる。
 土手道には、ヒガンバナが炎を灯すろうそくの様にニョキニョキ生えている。
 久しぶりに堀切菖蒲園へ散歩に行ったら、奥の池に黄色い花がたくさん浮いている。コウホネの満開に気分も浮き立った。
 小庭では、盛りを過ぎた夏の花々の足元で先月末に種を埋めたキキョウの芽が出てきた。
 こうして、時が過ぎてゆく。
 眠れずにいた夜明け前、ゴトンとポストに新聞の落ちる音がした。
 せっかく日本へ留学に来たのに、コロナ禍で自由に見て回ることもできず、ずっとマスクをして、朝夕新聞を配達している留学生さんの顔が浮かぶ。夕刊配達の時は、いつも店まで持って入ってくれる。「ありがとう」と挨拶すると、ニコッとかわいい笑顔をみせる。
 季節が順調に進むように、コロナも収束して、留学も遊学もできるといいな、と願っている。

8月のユーコさん勝手におしゃべり
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