ユーコさん勝手におしゃべり

5月24日
 先週、朝の荒川土手を店主と自転車で海まで走った帰りのことである。
 土手道は、左手に広い荒川、右手に細い綾瀬川と、二本の川の間を通っている。快調に走っていると、前をゆく店主が急に止まった。
 黙って店主が指さす先に、数羽のカモが荒川の土手を歩いて登っている。大き目の一羽がみんなが登り切るのを待っている。
 そっと店主のそばまで行って、土手道を左から右へ全羽がヨチヨチと渡るのを遠巻きに見ていた。
 「きっと 親子だね」
 「歩く練習してるんだね」
 と小声で話す。
 みんなで道を渡り終えた。歩いて綾瀬川土手をおりるのかと思いきや、何と彼らはいっせいに飛んだ。
 「え? 飛べるんじゃん」
 すーいっと綾瀬川の上を飛び、さっき歩いた土手道の上も飛んで、荒川土手におりた。少し歩いて再び飛んで行った。ちょっとだまされた感じで、二人で顔を見合わせた。
 「歩いたり飛んだりする練習だったんだね。 これからみんなではぐれないで別の土地へ行くのに、そういうことが必要なんだよ。」
 と、なぜか、カモのかわりに私が店主に言い訳をした。
 今朝は、旧中川の土手を自転車で走り、カルガモ一家を見た。日当たりの良い河原の石の上で、日向ぼっこをしている。
 こちらはまだポヨポヨの羽のヒナだった。
 ものみな育つ季節である。

5月17日
 昨日、ハニーサックルのさいしょの花が咲いた。
 「初夏が来る、初夏になる。」
 と純白の花が さわいでいた。
 寒の戻りがつい最近まであったせいで、春の花壇のままの小庭で、ハニーサックルが季節の交替を催促している。
 一日たって、今朝は、純白から見慣れた白と黄色のツートンカラーの花色になっていた。和名は「すいがずら」、甘い蜜を吸っていたことからついた名前とのことで、英名の「ハニー」とも重なる。香りの良さから植えたのだが、今年はちょっと花を手折って吸ってみようか。
 午前中、自転車に乗って荒川沿いを海まで走った。土手に出ると、目の前にスカイツリーが見える。今年開業7周年だそうだ。建設中、空へと編み上げていくように、高さをあげていくのをよく見ていた。あれからもう8・9年もたったのか。目の端にスカイツリーを見ながら、時の流れを感じる。
 川の終わりまで行く。右前方にゲートブリッジ、左に葛西臨海公園が見える。釣りをしていた人が、大きなタモを操ってなにか引き上げた。陸に揚げたタモの中に立派な魚がいた。観察した後、すぐに河口に放す。持ち帰るつもりはないらしい。
 聞くと、「黒鯛(チヌ)だ」と教えてくれた。黒い体に鋭い背びれで、尾びれは黄色い。姿を覚えておいて、帰宅後調べると、キチヌという魚だった。
 こんなに身近なところにも、いろんな生物がいるものだ。
 店を開けて、お客様へ発送伝票を書く。「図鑑」を送ったお客様に、「風薫る五月、観察日和が続いています」と小さく書き添えた。

5月13日
 天気のよい朝、小庭で飼いカメにエサをやる。
 ひがな一日外を眺めて日向ぼっこしているカメに、話しかけてゆく人は多い。飼い主も知らない友達(主にご老人と幼児)が、たくさんいる。カメも足音や声を心得ていて、気を許した人だと、平然と頭をなでられたりしている。
 今日も、カメの知り合いがやって来て、アサリを食べているのを見て、
 「おはよう。アラ、おいしそうねぇ」 と言う。カメへのあいさつの後、顔を上げて、人間同士も小庭の花の話などする。それから、おばちゃんは、も一度カメの方を見て、
 「カメの入れもの、何で小さくしちゃったの?」 と聞いた。
 「え? 水桶ですか? 去年とおんなじですよ。」 と答える。
去年使っていたものを、冬眠前に洗ってしまい、そのまま今年も使っているのだ。
 「そうなの?」 とおばちゃんはけげんな顔をする。
 「水槽が小さくなったんじゃなくて、カメが大きくなったんですよ」 と言うと、納得して笑顔に戻った。
 毎日見ているとよくわからないけれど、カメはどうやらまた少し大きくなったらしい。
 そういえば、先日掃除した時、早春まだ外に出す前にカメがよくもぐっていたラグの下に、きれいに剥れた甲羅が一枚落ちていたっけ。

5月8日
 花が ふってくると思う
 花が ふってくると思う
 この てのひらにうけとろうとおもう

 八木重吉の詩が頭の中で何度もリピートする。
 連休終了とともに、店横の壁を白く染めたジャスミンの花盛りも過ぎた。
2階の窓から身を乗り出して、伸びたつるや花の終った枝を切る。てんとう虫がよく働いてくれて、アイビーにもアブラムシがついていない。
 私が、カバンに不織布を入れて持ち歩き、てんとう虫を探しているのを知って、家人も出先から、
 「おみやげ。連れてきたよ」
 と持ってきてくれるようになり、一気に数が増えた。二世も誕生していて、小さな姿を見かけると頬がゆるむ。
 45Lのゴミ袋いっぱいのジャスミンの花がらを持って階下に降り、道と小庭を掃除する。ジャスミンのアーチを下からバサバサゆすると、花はいくらでも落ちてくる。
 自分もジャスミンまみれだし、小庭のカメも背中に花を積もらせている。落ちた花を集めて、特大ポプリを作るようにゴミ袋に詰め込む。
 風のない今日のような日は、作業にぴったりだ。今年も、ひとつの季節を終えて、次の時を迎えられることをうれしく思う。
 次の香りはハニーサックルかな。

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