ユーコさん勝手におしゃべり

11月30日
 コート不要の陽気を維持したまま11月がゆく。
 小春日和といえるのは、11月までとどこかで聞いた。明日からは、このあたたかさを、小春日和といわずに 何と呼ぼう。
 気温とは関係なく、カレンダーは進む。紅葉の時期だけ一般開放される市川市大町公園のもみじ山は、あと3日で閉門だ。
 飼い亀の冬眠用の落ち葉を集めに、午前中、車で出かけた。梨園に囲まれた公園の一角にある全山もみじの丘に登る。色づいてはいるものの、絶好調までは、あと1・2週間必要だろう。日影のふもとは見頃だけれど、山頂のもみじは緑濃く、まだ盛んに光合成している。
 持参のビニール袋に紅く落ちたもみじの葉を拾って入れた。あとはどこかで桜の落ち葉を調達すれば、冬眠用布団は準備完了だ。
 とはいえ、今日も最高気温は18度になった。カメは家の中でボーっと寝ているけれど、熟睡の気配はない。お気に入りのカメ用ふとんから出して水桶に入れたら、プクッとかわいい音をたてて、おならを2つした。

11月23日
 「霜月」という名に似合わぬほど、温暖な11月だった。
 半ばを過ぎて、やっと各地で初霜の話題も出るようになり、朝晩の冷え込みが始まった。
 寒さも強くなってくると、空が澄み、夜の月もきれいに見える。天気と時間が許せば、少しずつふくらんでゆく月を楽しんでいる。
 そして、今晩は満月だ。 すっかり暗くなった6時に、外へ出た。
 「満月を見に歩道橋まで行ってくる」 と言うと、家人も すぐ後から行く と言う。
 堀切菖蒲園駅の高架ホームのはずれにある古い歩道橋は、すぐ下が信号機のある横断歩道で、利用する人はあまりない。私も普段は使わないが、地元で月を見るのはここ と決めている。
 駅を背に歩道橋の左側、千葉方向に大きな月が出ている。右前方、川向こうにスカイツリーが、いつもと違う色味で建っていた。通常は控えめな江戸紫か青だが、今日は明度の高い赤の土台の上に白、そして青がキラキラと灯ったりグラデーションを残して消えたりしていた。
 いったん歩道橋をおりて、駅から出てきた人の群れと混じってこちらに向かって歩いていた家人に、
 「今日は、スカイツリーがスペシャルバージョンだよ。いつもと違うよ、早くおいでよ。」 と言った。
 私が先に立って、も一度歩道橋を登ると、もう一人初老のご婦人が歩道橋を上り、いっしょに川向こうを眺めた。
 「スペシャルバージョンだって聞こえたから、いつもは歩道橋使わないんだけど、見に来たわ。きれいね。」 と言いながら、スマホを取り出して写真を撮った。 家人が
 「クリスマス・カラーかな。」 と言う。
 見知らぬ人と一緒に、みんなで歩道橋の両端の丸い月とスカイツリーを観る。
 不動の月と、ランダムに繰り返す光のタワーを見つめたほんの数分が、今日一日の中の、一番長い時間に思えた。

11月11日
 昨夏に母が亡くなってから、週に二回、齢91の父のところに通っている。葛飾から横浜まで、電車とバスで1時間ちょっとの道のりだ。
 手入れをする人のいなくなった実家の庭は、夏の終わりに、大胆に枝切り、草刈りをする。
 「今年も水仙が咲くかしら」 と思っていたら、もう最初の数輪が白い花をつけていた。
 薔薇は元気に何度目かの花を広げている。菊はびっしりとつぼみを持った。
 いろんな季節がせめぎあって、やけに温暖な11月をいろどっている。
 いくら丈短く切っても、またすっくと伸びてくる南天が、庭に正月らしさを作り出すだろう。
 夕方薄暗くなってから、米びつの米が少なくなっているのに気付いて、自転車で近くのスーパーに行った。
 空に細い月が浮かぶ。原理は知っているけれど、あの月が、しばらくするとこってりとした満月になることが、やっぱり信じられない。
 スーパーの帰り道、おじいさんが、長く伸ばしたリードをつけたコーギー犬と歩いていた。犬は立ち止まり、動かない。おじいさんが前を向いて、
 「みんな おうちに帰りました。」
 と言った。さっきまで、女の子が、何かのごっこ遊びをして 3、4人で遊んでいたところだ。
 犬は、納得しただろうか。

11月10日
 雨上がりの早朝、自転車で荒川土手に出て、堀切橋を渡る。海に向かって行くと、目の前にまぶしい太陽があり、グラウンドで野球やサッカーに興じる子どもたちも大人も、全てがキラキラ輝くシルエットに見える。
 まだ水溜りが残る道も、荒川を下って、木下川排水機場から旧中川に入るころには、乾きはじめる。
 夏の異常気象のつじつまを合わせるように、おだやかな秋日和が続いている。このところ、夏の次はすぐに冬かと思わせるような年が重なったので、今年の長い秋がことのほかうれしい。
 多様な水鳥が遊んでいて、時の流れから切り離されたような旧中川水辺公園を通って、小名木川に入り、横十間川を錦糸町方面へ行く。 スカイツリーの横を通って、隅田川に出る。10時近くになると、日はすっかり高い。今日も小春日和だ。
 隅田川を上って、千住汐入大橋を渡れば、すぐ荒川にぶつかり、堀切橋を渡る。
 橋を渡れば、自転車散策は終点だ。見慣れた道を通るうちに、頭の中に仕事や食事の段取りが戻ってくる。
 時刻は10時30分、好天に感謝して、今日も一日がはじまる。

11月1日
 バイクに乗って筑波山へ行った。ロープウェイで女体山へ登り、奇岩の続く登山道を歩いておりた。山の上からは遠く富士山もスカイツリーも見えた。雲の描く絵に見惚れた。撮った写真の主役は空ばかりになった。
 「空がひろかったねぇ」
 「そうだなあ、ほとんど空だったなぁ。」
 と、帰宅後一緒に行った店主と話した。
 帰途、周りはぐるりと田んぼと果樹の道でバイクを停めて、しばらく景色を見た。田んぼの中に家があり、あとは空と、どこからでも見える筑波山がある。
 「見えるもののほとんどが空だもんな」
 「あそこに住んでいれば、毎日毎日空を見て暮しているんだねぇ」

 先週は、栃木・前日光つつじの湯へ出かけた。露天風呂に入っていると、上空に、ふわひらりと揺れ飛ぶ蝶が見えた。三角形のアメリカン・カイトのようで、はじめはごく小さなカイトが飛んでいるのかと思った。黒枠に囲まれて白っぽく、以前奥日光で見たアサギマダラとそっくりだった。一羽だけで、すぐに山側に飛び去った。色づき始めた木々をバックに優雅な飛び姿だった。
 露天風呂の裏側は杉林の山がそびえている。ひらけた前方にも山があり、山と山の上に高い空があった。

 おとといの朝は、開店前に自転車に乗った。荒川から旧江戸川へ、江戸川から都立水元公園を経由して中川に入り荒川に戻る下町川巡りだ。土手も空が広い。広いけれども視界の下半分に住宅やマンションの人々の暮らしが見えるいつもの空だ。

 小春日和がつづいている。晴天にさそわれて、空を見る機会がふえた。いくつかの場所に身をおいて、智恵子になったり光太郎になったりして、ひとりで空の会話をした。
 ほんとの空はどこだろう。

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