ユーコさん勝手におしゃべり |
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2月24日 口数が少なかった子がことばを覚えてゆくように、花数が増えていく。 寒さに身を縮めているうちに 伸びてきた日照時間に呼応して、芽吹きの時がやってきた。 先週、足立区の大谷田公園の梅園に行くと、地面に黄色い福寿草が咲いていた。ロウバイと水仙の香りが風に乗ってくる。まだ三部咲きの梅の枝の周りを、スズメにメジロ、ひよどり、四十雀と、小鳥たちがにぎやかに飛び回っていた。 そして、久々に陽射しの暖かさを感じた今朝、墨田区香取神社の香梅園へ行ってみた。工場と団地の並ぶ色のない沿道で、数百メートル手前からそこだけこんもりと色があふれているのが見える。 白、桃、紅のしだれ梅が降るように咲き、芳香を放っている。梅園のある交差点の手前からもう花粉症対策のマスクをとって、鼻腔をいっぱいに膨らませて梅の香を吸い込む。 この香りをかぐと、春のスイッチが入り、「まぁ いいかな」と思っていた自分用の小さなお雛さまを、やっぱり今年も出そうと思う。 プランターのチューリップの芽も伸びてきたし、先日街角で沈丁花の最初の一輪も見た。身の回りのいろんなものの成長を、見逃すことなく見つけたい。 昨年の夏に亡くなった母が、数日前夢に出てきた。夢の中の登場人物の一人として、違和感なくやってきて普段の笑顔でまた去った。私の夢に出てきたのは、亡くなってからはじめてだった。 春が来たのを知らせに来てくれたのかもしれない。わかったよ、ありがとう、がんばるよって、うれしい気持ちで目が覚めた。 2月7日 所用があり、横浜の実家へ電車で行く。カバンのポケットに移動用の文庫本が入っていて、JR京浜東北線の車内に座ると、すぐにページを開く。 活字を追っているうち、時間は飛ぶように過ぎてゆく。東京から神奈川に入ると読むペースを落とし、話の切れ目を探しておく。 多摩川を通過し鶴見川を渡るところで、顔を上げると目の前に真青な空が広がっていた。 市街地はどんどん様変わりしニョキニョキとビルが建つが、土手の上だけは変わらない。冬の澄んだ空色を、はじめて見るように眺めた。 先月末にスーパーブラッドムーン(皆既月食)も見たし、先日車で横浜港へ行った時には、ベイブリッジの上から、雪を頂いた富士山のバックに大きく広がる青い空を見た。幾度も見ているはずなのに、空はいつも新しく、新鮮な気持ちを運んでくれる。 電車を降り、バスに揺られながら、昔聞いた父の話を思い出す。 トラクターなどない戦前のことで、新潟の農家だった父の家では、牛や馬が良き働き手だった。その日、少年だった父は、父親と一緒に牛を連れて牧草を取りに出かけた。 「牛の背に荷を乗せて 帰る時、親父が 『今日はやけに日暮れが早いな。急いで帰ろう。』 って言うんだ。それで家に向かっている間にも、みるみる暗くなってきて、牛も切ながってな、やっと引っ張って もうすぐ家だっていうところで、また明るくなったんだ。背中の方からでっかい太陽がさしてきて、びっくりしたよ。 親父が 『うしろを見るな!』 って言ったんで、ふり向かないで一生懸命歩いたよ。 親父は 『きつねに化かされてるんだ』 って言うし、おっかなかったなぁ。」 初めて聞いた子どものころは、それは不思議に思ったものだ。その後大人になって知恵がつき、「その日はきっと皆既日食だったんだろう」と思っていたが、先日調べてみたら、その期間に日食はなかった。 詳細な天気予報などの情報のない時代である。明治生まれの父の父も、真剣にきつねの仕業と思っていたのかもしれない。 見たことのない頃の見たことのない風景を想像しているうちに、バスは目当てのバス停に着いた。 きれいな空と、空から導かれた思い出のおかげで、自宅から実家まで1時間半の道中が、今日はずい分短く感じられた。 1月のユーコさん勝手におしゃべり |