ユーコさん勝手におしゃべり

12月31日
 店舗のウィンドウを背にするところに私の机があり、たいていそこに座って仕事をしているので、日々、太陽の動向が身近にある。
 日の暮れるのが早いと、勤務時間は同じなのに、いつもより長く働いているような気になる。5時にはもう夜の様相で、あれ、と思って時計を見ては驚いていた。
 そんなことが何度かあるうちに冬至になり、冬至を越えて、何度かゆず湯に入るうちに、また日が少しずつ長くなった。
 これから寒さは厳しくなるけれど、背中に明るさを感じる。
 「冬来たりなば、春遠からじ」 を実感しつつ、
 年が暮れて、年が明けても、変わらぬ商いを続けていけることを、お客様に、感謝いたします。来る年も、よろしくお願いします。

12月15日
 天気のよい朝、自転車で都立水元公園へ行ってみた。
 メタセコイヤの森の紅葉はもう終わっているだろうと、あまり期待はせずにいたが、公園に入るなり、遠景に赤茶の林立が見えた。陽があたって輝いている。
 喜んでそちらに向かって自転車をこぐ。何年か前に見た時は、世に聞くオレンジ色の紅葉というよりは、枯れた針葉樹林のような印象だったが、時期の問題だったのだ。
 メタセコイヤの森に入ると、視界には細い道とメタセコイヤしかない。針葉樹がハラハラ降るのを始めて見た。まるでオレンジの雨だ。針葉樹なので、地面に降り積もってもカサコソいうこともなく、地面と静かに一体化してしまう。
 桜の花も、満開の時よりも少し散りぎわの方が切ない美しさを感じさせる。それと同様の幻想的な美しさだった。
 いつだって、その時にしか見られないものがある。どこにいても、見るものが何もないなんてことはないものだと、自然のふところの深さに感服した。

12月8日
 浴室の出窓に、前の晩湯舟に入れた柚子がひとつのっていた。
 風呂場を掃除しようと扉を開けたら芳香がひろがり、黄色が陽に光っていた。
 梶井基次郎の「檸檬」が読みたくなった。その日、店から文庫を一冊抜いて読んだ。
 翌日、ホームセンターに行って、パンジー・ビオラの苗を買い込んだ。とりどりの苗をカートに入れる。
 そして今朝、夏の花壇から冬の花壇へ、最後の植え替えをした。梶井の本からわきたった色とかおりを追体験するように、色と色を重ねる遊びを、地面にひろげた新聞紙の上の苗のポットで、合法的に、やった。

12月4日
 栃木へ、店主と二人で麺食い旅に出る。
 一番の目当ては粟野のそばなのだが、そばは冷たいもりそば一辺倒なので、この気温では三食そばはちょっと寒い。そこで、お昼は佐野ラーメンにしようと意見が合った。
 佐野ラーメンといえば行くところはもう決まっているので、今回はカーナビも不要。東北自動車道の左右は、収穫の終わった田がせいせいと広がり、すっかり冬の様相だ。
 いつもの麺ロードをゆき、道の駅の直売所で、ずっしりと重い手打ちうどんと、やつがしら、キャベツを買う。その後、あつあつのラーメンと餃子に舌鼓を打って、冬野菜の畑を車窓に眺めながら、鹿沼へと山と峠を越えてゆく。
 粟野でも直売所へ寄り、ぎんなんと葱など野菜を買う。店主は喜々として手打ちそばを購入。夕食はそばなのだが、明日もここのそばを食べるつもりなのだ。
 ちょっと傷のついた柚子がご自由にお持ちくださいと、ビニール袋に入っていた。「ありがとうございます」とお店の方に挨拶して、遠慮なくいただいた。
 3時には目的地のつつじの湯に到着。本も2冊持ってきたし、あとは、閉館までゆっくりお風呂に浸かり、本を読み、お風呂に入り、そばを食べ、お風呂であったまる。
 おなかも心もいっぱいで、明日の食材も調達の、有意義な休日だった。

12月2日
 師走に入ると同時に寒波が来る。11月の末、気象予報士が、
 「今までは寒気、これから来るのは寒波です。寒気は寒い日があってもすぐ暖かさが戻りますが、寒波は長く寒さが居座ります。」
 と説いて伏せるように告げていた。
 12月は雨ではじまった。冷たい雨の中、ちょっと歩いてみたくなって、堀切菖蒲園まで行ってみた。入り口まで来ると、松に雪吊りが施してあった。奥のほうには、藁で冬囲いされた牡丹の花壇が見える。雨でくさくさしていた気持ちが、きりっとした冬支度を見て晴れた。冬桜も少し見ないうちに満開になっている。
 誰もいないかと思っていた園内だが、入場口の事務所のひさしの下で、休憩中の庭師さんが一人、しゃがんでコーヒーを飲んでいた。軽く会釈をして、園内を歩いてみた。ひとけのない庭の真ん中で、小鳥が一羽はばたいた。濃い橙色の腹に黒の尾、白い柄がついている。青竹をたわめてつくった真新しい柵の上をとまり歩いていた。あとで名前を調べる宿題をもらって、帰ろうとすると、ザッと雨が強くなった。先ほどの庭師さんが、コーヒーカップをつかんで立ち上がり、事務所の方へ走りこんでいった。
 店に戻ってパソコンで野鳥の画像を探した。「ジョウビタキ」だった。次に見かけたときは、「あ ジョウビタキだ」って声がかけられる、とうれしくなって、午後の仕事にかかった。
 翌日は、雨上がりの陽が出たが、昼になっても飼い亀は、桜の落ち葉のたくさん入った水槽にもぐって顔を出さない。いよいよ冬眠である。
 土を入れた冬眠用の水槽に亀を移し、紅い桜の葉と黄のイチョウの葉、そして水をたっぷりかける。桜の香りがふわっとたつ水槽を、日影の棚に収納した。
 めりはりのある寒波のおかげで、亀はよい眠りにつくことができたろう。
 これからどんなにきれいな紅葉をみても、亀のために葉を拾い集める必要がないと思うと、ちょっと淋しい。

11月のユーコさん勝手におしゃべり
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