ユーコさん勝手におしゃべり

12月30日
 初秋のころ、もみじの苗をいただいた。高さ15センチ程の盆栽の赤ちゃんである。朝に夕に見ているが、元気に葉を繁らせている。
 「若いから紅葉しないのかな。寒くても半そで短パンの小学生男子みたいだ」 と思っていたが、数日前から紅くなりはじめた。大木は葉を落としてだいぶたつ。やっと冬が来たことに気付いたらしい。

 本を送ったお客様から、「私も納戸で冬眠中の鈴虫に再会するのが楽しみです。」 とお便りがあった。
 もうすぐ年がかわる。年がかわれば春が来る。
 この年の瀬も、来春を待つ喜びがあることに、感謝。 来年もよろしくお願いいたします。

12月26日
 先週、クリスマス前に、浅草へ寄席をみにでかけた。その日は朝から雨模様で、電車で行くことにした。
 浅草は東武スカイツリーラインの終着駅で、電車からは多くの人がはき出された。二階にあるホームから改札を出てゾロゾロと階段を降りる人の中に、サンタクロース(の衣装の人)が一人いた。白い縁取りの赤い服、赤い帽子で赤い大きな袋をさげている。明らかに姿はサンタだ。
 しかし、普通なら目立つはずなのに、すっかり他の群集にとけこんで皆と同じ歩調で歩いている。
 とんぼやバッタを捕まえるのがやけに上手い人というのがいる。それも素手でスッととる。そういう人は気配を消すのが得意なのだろう。サンタ姿の彼を見て、それを思い出した。仕事が始まればきっとサンタに見えるのだが、彼は今気配を消しているのだ。階段を降りきると彼は売店へ行き、おしりのポケットからサイフを出した。
 「サンタクロースも競馬新聞買うのね」
 器も蓋もない味気なさをミもフタもないっていうけど、これはミとフタしかないサンタだな、と何だかおかしかった。

12月16日
 夕べから今朝にかけて風が強かった。急な冷え込みで一気に冬になだれ込んだ。
 夜、店を閉めに外へ出る。店内の気温に慣れた身は、コートを着てもまだ寒い。均一台の本を片付けながら、「とっととしまおう」と思っていた。すると、うしろから、
 「見て、月の光の明るいこと」 と声をかけられた。
 ふり向くと、ご近所の奥さんの笑顔があった。本の山から一歩下がって道に出る。天を仰ぐと、薄雲越しに月がある。月のまわりに虹色の輪ができていた。
 「ほんと。光ってますねぇ」
 「でしょう。きれいね」
 いっしょに月を見上げる奥様の向こうに手をつないだだんな様の姿があり、
 「行ってらっしゃい」 と、夜の散歩に出る二人を見送った。
 ご近所の年上のご夫婦である。だんな様は認知症とうかがっているが、変らずダンディである。おしゃれで可愛い奥様と毎日散歩されている。
 先日、小さなお孫さんも連れ立ってうちの横を通った。亀の水槽をのぞく女の子に、
 「もうすぐ 冬眠するんだよ」 と言うと、だんな様とつないだ手を揺らし、
 「うちのも春まで冬眠してくれるといいんだけどな」 なんて言って、笑顔でペロッと舌を出すような奥様である。
 いろんなことがあるけれど、文句を言えばキリがない。笑顔の力は絶大だ。
 寒いからこそ輝く月に照らされて、明るい気持ちで店を閉めた。

12月11日
 亀が眠った。
 12月も2週目に入り、冬らしい気温になった。それでも朝になると甲羅からニュッと顔を出し、少し散歩したりしていたが、昨日の朝はあいさつにも出てこなかった。今朝は水槽の底ですっかり気配も消していて、冬眠態勢に入ったことを知った。
 冬眠用水槽の仕度は12月早々から整っている。明日の朝、たっぷりの落ち葉のふとんを背にのせて、北向きの棚に収納しよう。
 数日前に芽を出したチューリップが咲くころ、また新鮮な気分で彼女と会おう。

 亀の冬眠を見届けた今日、店主は机に大きな紙を広げて線をいっぱいひいている。
 毎年いただくカレンダーの中に、一年の日付が一枚に書かれていて、ちょっとした予定を書き込めるものがあった。いつ何をしたかわかって便利なので、もう何年も日記代わりに愛用していたが、今年はカレンダーの体裁がかわっていた。いただきものなので、「何で変えちゃったんですか」と言うわけにもいかない。
 考えた末、自分で作ることにしたようだ。
 最初は「何でカレンダー変えちゃったんだろ」と不満をもらしていたが、材料をそろえ、書き終えた後は、
 「正確な線をたくさんひくのは、写経に似てるな。精神統一になる」 などと言う。
 何事もやってみれば、怪我の功名ということもある。

12月3日
 店の横の小庭に、シュッと細長い顔をしたバッタ一家が住んでいる。朝、花がら摘みをしていると見かけるので、「おはよう」とあいさつする。
 11月の後半からはいつも一匹が、店の出入り口の横に掛けたウォールプランターのバコバの花の上にいた。気に入ったのか白と紫の花の上でじっと天を仰いでいる。鳥に見つかっちゃうのではと心配したが、姿をみせてくれているのがうれしくもあった。
 12月に入った最初の晩、店を閉めるときに、ドアの横の地面に落ちていた。
 「また 会おうね」 とウォールプランターの下の大きなプランターの中に入れた。来年会うのは別の固体ではあるけれど、うちの小さな花壇で連綿と命をつないでいるのだから、少しは気心が知れているものと、勝手に思い込んでいる。

12月1日
 冬はやっぱり みかんのお風呂。
 おいしく食べたら皮はお日様に干し、カラカラにしてお風呂に入れる。ふやけて再び色をとり戻したみかんの香りに一気にいやされる。
 道行く人の鼻唄が聞こえてくる。人に聞かせるために発した音ではないので、鼻唄は自分でも音が出ていることを意識していないのだろう。♪フンフン♪とその無防備な音階が、「ジングルベール ジングルベール」と伝えている。
 11月30日から日付が変わるころ、湯船に浸かりながら、
 「ああ 12月になったのだなあ」 と実感した。

 12月は明るい日差しとともにやってきた。このところ、天気と時間が許せば、午前中は紅葉散策に出かけている。西に東に、色づく木々をたくさん見た。小金井公園の江戸東京たてもの園で、柊の香りをはじめて知った。
 何気ない路地で強い芳香にふり向くと、緑の柊が一本小さな花をたたえている。節分にいわしの頭と添えられたり、クリスマスリースになったり、永年見慣れたトゲトゲの葉である。銀木犀のような花をつけ、くちなしのような香りを放つとは知らなかった。
 知らないことはまだまだいっぱいある。知らないことや知りたいことが山ほどある。
 だから、明日も、来週も来年も、大事にきょろきょろ探検探索していこう。

11月のユーコさん勝手におしゃべり
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