ユーコさん勝手におしゃべり

11月24日
 近隣で紅葉が盛りだ。
 今朝は、冬眠前の飼い亀も連れて、近所の小菅東公園へ出かけた。春の花見時にはにぎわう公園の広場で、亀はひなたぼっこ、店主と私は落ち葉拾いをする。スーパーのレジ袋二つに、桜葉のいいかおりの冬眠用ふとんの仕度が出来た。
 帰り際、池のほとりのもみじが真赤だったので、そのそばを通ってゆくことにした。
池の鯉を眺めていたサッカー少年たちの一人が、もみじを指差し、コーチ風の男性に、
 「ねぇねぇ あのもみじ、クソきれい」
 と明るく言った。
 私と店主は、顔を見合わせた。
 「斬新だね」
 「めっちゃきれい と同じ接頭語だけど…。ちょっと違うよね」
 かわいいボーイソプラノの声と出てきたコトバのギャップは、店に戻るまで話のネタになった。
 夕べインターネットで、小津安二郎の映画「秋日和」をみた。もみじの色は変わらないけど、ことばはどんどん変わっていく。自分も時代の流れの一部にいるのだなぁ。

11月23日
 個人的な笑いのツボというのがある。私にとってその筆頭がエレベーターの案内テープだ。男性の声というのは聞いたことがない。きれいな女声の録音が、「○階です。」と流れる。
 1階、2階、3階と上がっていくとちょっとドキドキする。あの美しい声が、「誤解です。」と訴えるのが、好きなのだ。5階がくるたびに顔がほころんでふき出しそうになるのだけれど、周りの人は皆何事もなく、それぞれ視線を合わせない角度で立っている。
 誰からもそういう話は聞いたことがないし、自分もはじめて文字にしたんだけれど、エレベーターが「5階」にとまる都度、わたくしちょっと妄想を楽しんでおります。

11月20日
 先週末から、小春日和が続いている。
 日曜日、十三夜の月が美しく、閉店作業中に店主が小さな望遠鏡を持ってきて、月のうさぎの観察をした。
 十四夜、十五夜と月を愛で、十六夜の今日も楽しみにしていたが、さすがに「いざよい」といわれるだけあって、7時の閉店時間に、店の前の道からは姿が見えなかった。おでましを待つのももどかしく、店を閉めてから月を求めて、近くの歩道橋に登った。
 京成線の高架と同じ高さに線路と平行して並んでいる歩道橋である。昨日より少し欠けた薄橙色の月が、屋根屋根の上に大きく見え、電車が通ると視界から消えた。誰も通らない夜の歩道橋、前に月、後ろにスカイツリーで、時々スカイライナーがすぐ横を走る。小さな望遠鏡を手に、いつもの地元が知らない土地のように感じられた。

 秋が深まるにつれ空も澄んできた。明日はどこから月を愛でようか。

11月15日
 急に寒くなった。
 雨がちの秋で、好天はあらわれたと思うとすぐに消え、二日と続かない。例年なら10月の後半から「紅葉待ったなし」とかいって、あちこち駆け回るのだけれど、今年は11月に入ってから行った那須塩原方面でもまだ七分というところだった。
 飼い亀のお布団と称して集める各地の紅葉の落ち葉も収穫無しのまま、週が開けるといきなり、初霜、初氷のニュースが相次いだ。今迄楽しくお散歩していた亀も、今週の半ばから葉っぱの中にもぐりこむことが多くなった。
 紅葉巡りに行きはぐり、さてどうしたものかと、ご近所の堀切菖蒲園へ行ってみた。木には雪吊り、牡丹には雪囲いが施されて、冬支度の園内には冬桜が咲いていた。ゆるい日ざしに冬桜がよく似合う。
 落ち葉の掃き掃除をしている方がつくった桜の葉の山がとてもきれいで、「少しもらってもいいですか」と声をかけ、持参のビニール袋に紅い桜の葉をいただいた。園の外の大きなけやきの落ち葉もつめこんで、桜けやきミックスの一袋が出来上がった。遅ればせながら、冬眠準備の第一弾だ。来週こそは好天に期待したい。
 落ち葉拾いの帰り道、スーパーへ寄った。レジに行き母子連れのうしろに並んだ。ママが幼稚園児の女の子に、「ちょっとここで並んで待っててね」と声をかけて、チョコレートを一箱もって戻ってきた。女の子が、「フルーツのチョコだ」と言うと、ママが、「食べたら証拠隠滅ね」 とささやいた。
 「インメツ?」
 「証拠隠滅よ」
 「インメツって?」
 女の子にははじめて聞くことばで、意味がわからなかったようだ。
 「秘密にすることよ。箱はゴミ箱の下の方に内緒に隠しちゃうの」
 「前に食べたって言えば?」
 「お姉ちゃんはスルドイからダメよ。証拠インメツね。」
 とママが言う。小学校に行ってるお姉ちゃんには内緒のおやつのようだ。
 こうして、彼女はインメツという新しいことばを獲得した。フルーツチョコの味とともに。
 でも、自分とこんな風に秘密を共有するママは、自分がいないときにきっとお姉ちゃんともこんな秘密をもっているはずだとは、まだ気付いていないんだろうな。

11月5日
 レーズンにヨーグルトチョコをかけたお菓子が、甘酸っぱくて好きである。たまに買って、一粒ずつ楽しみながら食べる。
 今日ドラッグストアに行ったら、よく似た見かけの菓子があった。ぶどうといちごの絵がかいてある。意外な安さにつられて小さな一箱を買ってみた。
 店の外に出て、ひとつ口に入れてみると、思ったのとは違うものだった。チョココーティングの中身はドライフルーツではなく、ラムネであった。
 「お値段どおり、駄菓子だったのね」
 その時はがっかりしたんだけど、カバンのポケットにそれを入れておくと、何だか心が浮き立つのだった。仕事の合間に、
 「自分にごほうび」
 とか何とか言いながら、一粒口に入れては、子どもにかえっている。

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