ユーコさん勝手におしゃべり

6月23日
 梅雨時の行楽は天気のいいのが何よりのご馳走だ。この6月は、時ならぬ台風の襲来もあり、特にそう感じる。
 21日の木曜日、奥日光中禅寺湖畔にクリン草を見に出かけた。今年はじめての日光行きだ。例年ならもうとっくに出かけている頃だが今年は雨にたたられて、やっと機会を得た。21日は南関東はぐずついた天気ながら、宇都宮以北は降らないという予報だ。
 台風4号の被害で19日深夜第一いろは坂に土砂崩れがあり、現在第二いろは坂で交互通行になっていると、20日の晩になって知り、渋滞も見込んで朝5時に自宅を出た。
 高速道路は順調で、いろは坂までやって来た。車は通常通り走っていた。第一いろは坂の通行止めは解除されたらしい。登りの第二いろは坂も、沢水で濡れたところはあるが走りにくいところはなかった。道路の整備作業の迅速さに日本は勤勉な国だと感心する。これで、原発事故さえなかったら、今ごろはひたすら震災の復興に向けて、もっと前向きな気持ちで行楽や経済活動ができるのにと、つい思ってしまう。たられば言っても仕方がないとはわかっているけれど。
 ふもとでは曇っていた天候がいろは坂を登るにつれて明るくなり、薄日がさすようになる。7時半には竜頭の滝に到着。一休みして、8時から遊歩道を歩き出す。散策開始直後、菖蒲ヶ浜の手前で鹿と会う。台風で葉のついた枝がたくさん落ちていて、それを口でつまんでは食べていた。
 鹿には会ったが人には会わないまま千手ヶ浜近くまで歩いた。そこまで行くとハイブッリッドバスのバス停もあり、人が行き交っていた。バス停のベンチで休憩して持参のおにぎりで朝食をとった。満開のクリン草の群生地を経由して西ノ湖まで足を伸ばす。どことも似ていない奥日光の景色がある。西ノ湖入り口から石楠花橋までは、ハイブリッドバスに乗った。途中小田代原が近づくと白いズミの花がびっしりと咲いていて、たいそうなハイカーでにぎわっていた。
 石楠花橋でバスを降りしばらく歩くと、竜頭の滝の上に出る。暑くなく寒くなく絶好のハイキング日和となった。滝沿いを下って、日帰り温泉の横に出る。硫黄の温泉にどっぷりつかって、約4時間のハイキングはゴールとなった。温泉の休憩所では皆口々に今日の天気のよさを喜んでいた。
 ゆっくり休んで帰り道、奥日光に来るといつも寄る中宮祠の食堂で早目の夕食をとる。行列の絶えない店だがまだすいていたので、お店の奥さんとおしゃべりをする。食事中、お手製のきゃらぶきを小皿で出してくれた。その時「あ、これは大丈夫よ、調べてあるから」と言う。「セシウム 気にする人もいるからね」と笑顔で添えた。メニューにもない自宅の惣菜を好意で出すにもそんなことを言わねばならない。旅のはじめに感じた原発事故さえなければ、の気持ちが再びうずいた。
 きゃらぶきはとてもおいしかった。小田代原のズミの美しさの話に花が咲き、楽しいひとときを過ごした。
 よく歩き、おいしく食べた良い旅だった。

6月9日
 朝から雨が降っている。今日、関東地方の梅雨入りを夕刊が告げていた。
 梅雨入り直前の好天だった木曜日、千葉の伊予ヶ岳へ出かけた。海に囲まれた千葉県で唯一「岳」がつく山だという。
 ここの利点は立地だ。海から近いのでお弁当を持っていかなくても、漁港の食堂で、朝採れ魚のにぎりや刺身の切り落し丼を食べて、腹ごしらえしてから登れる。336.6メートルと東京タワーほどの高さの山だが、ロープを使って岩場を登るロープ場やくさり場もある。
 ふもとの平群天神社から登山道に入る。途中、小さい女の子とお父さんがいた。お父さんは地元でよく来ているが、4歳の女の子ははじめての登山だという。
 山道を登っていると甘い香りがする。青葉と花の香りがまざった吸気がさわやかでバラ園にいるような気分になり、上りが続いて息が上がってもつらさを感じない。白い花が数種咲いていて、そのどれから香るのか、花に鼻を近づけながら登った。
 野茨も多く、こちらも芳香だが、主役の香りはランのような巧妙なつくりの小さい花からやってきた。名前がわからないのがもどかしい。香りはないが可愛らしい白の小花はトベラだと、すれ違った山歩きグループのおじさまに教えていただいた。
 登山道は狭いので下山してくる10人ほどのグループが通る間、道を譲った。その最後尾の人がよく知っていそうな感じだったので、挨拶を交わす際に、「この花がよく咲いていますね」と声をかけてみた。
 「それはトベラですよ。秋になると3つに割れた赤い実がつきます」と教えてくれた。
名前がわかると植物と急に親しくなった気がしてうれしい。忘れないように、「トベラ」「トベラ」と唱えながら登り、休憩のときにメモ帳に「トベラ」「野茨」と書き、その下に良香の白い花の絵を書いた。
 ロープ場とくさり場をがんばって越えると、いよいよ頂上だ。頂上のすぐ手前にテーブルとベンチが設置されている。くさりで囲まれた一人か二人が立てる位の岩場が頂点で、海と山の景色が望める。自然と深呼吸したくなる眺めだ。
 頂上とはいえ、すぐ下が集落なのでここは携帯電話が通じる。ベンチで休んでいると、ふもとで会った4歳の女の子とお父さんの二人連れがやってきた。お父さんが、下を指差して、女の子に説明している。
 「あの黒い屋根がじいちゃんちで、あっちの屋根がうちだよ」
 頂上の標識をバックに携帯で写真をとり、「ママに電話してみようか」 という。二人で頂上に立って、女の子が電話を取り、
 「ヤッホーっていうから、ママも外に出て、ヤッホーって手振ってみて」 と言っていた。
 まさか姿は見えないと思うが、電話を通じてヤッホーの声は聞こえただろうな。その後、女の子は満足そうにビスケットを食べていた。
 頂上にも白い野バラが咲いていた。
 帰宅後、手帳に書いた絵を手がかりに、パソコンで白い花の名前を探した。スイカズラだった。
 これでひとつまた、山行き・散策の友達が増えた。次にあの甘い香りに会ったら声をかけよう。

6月2日
 菖蒲が咲き、あじさいが色づき、6月がやってきた。
 つばめの子が大きくなり、日ざしが強くなり、初夏がはじまった。北上したり高度を上げたりして、何度もおさらいした春の景色もいよいよおわりだ。
 春を惜しんで、5月の最終日に、前日光・井戸湿原へ山つつじを見に出かけた。車が山を登り高度が上るにつれて、濃い緑は新緑になり、山藤があらわれ、山つつじが終わりかけから満開になり、つぼみになった。湿原ではミツバツツジが盛りを迎えていた。
 季節はくるくるまわるものだから、先取りしたり舞い戻ったりできる。場所をかえて好きな花を何度も見ることができる。
 でも時間は一直線だ。後悔先に立たずとわかっていても、何を後悔するのかは前もってわからないのだから、いくつになっても何度でも後悔をくり返す。
 失敗したり立ち止まったりした時に、「でも、あんないいこともあったんだから。イイや!」 と早めに立ち直れるように、機会あるたびに、いいものを見たり、楽しいことを忘れないように記録したり、プラスの貯蓄をしておこう。
 この初夏に、お客様にも、私にも、いい出会いがたくさんおこりますように。

5月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「おしゃべり」