ユーコさん勝手におしゃべり

2月27日
 カラッと晴れて、冷たく乾いた北風が吹く。底意地の悪い東京の寒さだ。
 以前ロシアから来た留学生が、「東京の方がロシアより寒い」と言っていて驚いたが、日本でも複数の北国の人がそう語っているので、一理あるのだろう。
 イギリスから来た友人は、「東京の冬は、よく晴れて明るいから好き」と言って、寒さはこたえていないらしかった。「でも、住むなら北海道がいい」そうで、夏のじめっとした暑さの方が耐えがたい由だった。
 今朝はことのほか北風が冷たく強く、風にのって今まで出会った様々な人のことばの断片が、思い出された。

2月24日
 今週はじめの19日は雨水だった。暦の通り、雨の降る日がちょくちょくあらわれるようになった。冷たい雨のあとは、おだやかな晴天がやってきた。雨が季節を揺り動かして、春を呼び寄せているのだ。
 今朝、堀切菖蒲園へ散歩に行ったら、池に亀の姿があった。小さいのが二匹、一匹は水中の石の上から水面に頭を出し、もう一匹はゆっくり泳いでいた。
 日当たりのよいところではもう亀は目覚めたらしい。大型のは見なかったから、休日の朝、パパやママより早く目覚めて自分たちだけで遊びまわっている子どものようなものだろう。我が家の飼い亀は日陰の柵の中でまだ土と木の葉にくるまれて眠っている。三月になったらのぞいてみようか。
 ダイニングのカウンターの上に今年も自分用の小さなおひな様を出した。ありあわせのお菓子を一緒に並べて、冬から春へうつろう日々をお内裏様とともに楽しんでいる。

2月22日
 今年の冬はみかん。食べたら皮を網袋に入れて天日干しする。しっかり干したらお風呂に入れる。それだけのことだが、今冬のうれしいいとなみとなった。
 きっかけは道の駅とハワイアンズ。昨春の震災は、この国に住む人へ有形無形に影響を及ぼした。ちょうど地震の直前に行った旅行が、福島いわきのハワイアンズと千葉南房だったことと、そのどちらもが被害を被ったことから、私の心にも、有形とはならない応援となって影響した。
 計画停電がおわり、自由に行けるようになって何度か房総へ行き、道の駅で買い物をした。道の駅の農産物には、収穫者の名前が記してある。ある時みかんの袋にご年配とおぼしき女性の名前が書いてあった。その頃、遠く福島ハワイアンズの復興再開計画のニュースが流れていて、震災前さいごに行ったハワイアンズの大露天風呂のスチームサウナに陳皮(みかんの皮)が置いてあったことを思い出した。みかんを収穫した老婦人と、ハワイアンズのダンサーの笑顔が重なり、皮でさえ無下にはできない気持ちになった。
 それからみかん風呂の冬がはじまった。つかっていると、「今日もお風呂に入れる幸せ」に、身も心もあったまる。
 今朝、新聞の一面に白いなでしこの花が載っていた。シベリアの三万年前の永久凍土から採取したなでしこを培養して咲かせた花だそうだ。なでしこを含んだ化石は、氷河期のリスがエサをためていた巣穴の中にあった。
 その白い花は、幼い子どもがお絵かきで描く「おはな」の形をしていた。花もリスも変わっていないんだな、と思った。
 人はどうだろう。人は、いったいどこまでいくつもりなのだろう。

2月17日
 冬らしい冬である。冬を裏切ることなく、連日寒い。
 2月になれば、たまにポッと妙にあったかい日があらわれることもあるもので、1月の終わりの寒波の時には、「2月」という文字が輝いてみえた。ところが今年の2月は、たまには手を抜いたらどうかと思うくらいまじめに寒さを貫いている。
 「人間じっとしていると腐る」と思っている店主にとって、今年の冬はことのほか長い。先日も昼食をとりながら、
 「あー早くバイク乗りたい。体がくさっちゃう。
 じっとしていると体がなんか内側からふくらんでくる感じがするんだよな。」とのたまわった。
 そこで休日をやりくりして、暖を求めて南房総の旅に出た。天気予報では、
「今週は、木曜日一日だけ気温が10度を超える」 となっていた。
 「さすがにバイクは無理だよね。」と軽口をたたいて、車で水曜日に出発。どんよりと曇っていたが、前日の冷たい雨を思えばまだいい。
 鋸南の水仙ロードを佐久間湖までゆく。例年なら水仙は時期を過ぎ、川沿いの河津桜が咲きだす頃だが、今年はまだ水仙が満開で、河津桜の方は、数本おきに1・2輪開いた花が見つけられるくらいだった。杉は用意万端、褐色の花粉をかかえこんでいたが、まだ飛ばしてはいない。寒さの功罪か。
 館山の城山公園へ寄ると、梅と水仙の香がした。梅はまだ咲き初めだった。房総フラワーラインに入ると、曇天とはいえ、蛍光黄色の菜の花があざやかだ。
 翌日に期待して、この日は早めに宿に入る。
 そして翌朝、天気予報は、なんと、雪! 北関東はくもり時々晴れなのに、温暖なはずの房総だけが、雪マークをたたえていた。鋸山登頂はすっかり諦めて、棚田とだんだん畑の景色を楽しむドライブをして帰宅。雪の農村を走った車は、泥だらけだ。
 アクアラインを通って東京に入ると、路面は乾いていた。最初雪の気配はなかったが、お台場あたりを走るうちにチラチラ舞ってきた。
 なんのことはない、避寒の旅のつもりが、雪雲と一緒に走ってきたのだった。
 梅も桃も待ち遠しい、晩冬の長さである。

2月7日
 しとどに雨降る。雨の音で目を覚ました。
 2月になって、晴れていれば、寒くても日の輝きは増したのがわかる。しかし寒波の影響で、毎年今ごろはそぞろに出かける水仙まつりも梅まつりも、計画を立てては見直し、を繰り返している。
 1月の末には「この寒波がいってしまえば」と期待したが、雨降りの今日一日だけがあたたかく、また次の寒波が来るらしい。寒波は波のようなもの、来ても帰ると思っていたが、来ている期間が長すぎて、帰る間もなくすぐまた次が来る。見当はずれの今冬だ。
 雨の休日、映画「J・エドガー」を見に行った。イーストウッド監督としては、「グラン・トリノ」に通じるテーマを感じた。主演はディカプリオ。私にとってディカプリオのNo.1作品は「ギルバート・グレイプ」(ジョニー・デップの弟アーニー役)だから、今回の作品の彼に、「遠くへ来たなあ」と思った。
 振り幅があるって、役者にとってほめことば、だよね。

1月のユーコさん勝手におしゃべり
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