ユーコさん勝手におしゃべり |
||
|
||
5月31日 台風一過、1号・2号と5月の内に2つも台風がやってくる異例の天候だ。丸二日の大雨・強風ですっかり意気消沈したプランターの手入れをしようと外に立つ。 刈りこもうとした枝の小花にみつばちが蜜収集に来ていて、伐採を少し待つ。雨に打たれて終わった花を摘み取っていると、別のプランターに新しく咲きだした次の季節の花をみつけた。新しい芽吹きやいつもと違う蝶の姿も目に入る。 「片付け」のつもりで外に出たのに、自然の生命力に「これはやめられないな」と30分で宗旨替えとなった。いのちに感謝。 枝を整えながら、5月半ばに髪を切りに行った美容院での美容師さんのことばを思い出した。 「今週は、ストレートパーマの予約が多くて忙しいんですよ。いつもより2週間は早いんです。例年はまだ、なんですけどね。」 その時は聞き流したけど、こうしていざ例年より2週間以上早い梅雨入りと台風襲来を迎えると、人間も自然の一部なんだなと実感する。 小学生の時、自分の髪の毛による湿度計というのをつくったっけ。 5月28日 今年何度目かのいちごジャムをつくった。この春は例年になく、粒が不揃いの特売いちごがよく店頭に並び、ジャムをつくったが、いよいよこれで最後だろう。季節は早くも入梅に移った。 うす寒い日が多く実感がないが、陽射しの傾きは進んでいる。先日プランターの植え替えをした。今は春の花と夏の花が半々くらいになっている。 植え替えのたびに、はずむ大きな気持ちと共に、あぶらむしやヤスデたちと自分の偶然の立ち位置に小さな陰を感じる。 小さな陰を感じつつ、花カレンダーの進行する喜びには抗しきれない。 きょうも天気 花をうえて 虫をとる 猫を飼って 魚をあたえる Aのいのちを養い Bのいのちを奪うのか この老いぼれた Cのいのちの慰みに きのうも天気 きょうも天気 (まどみちお 詩集「いわずにおれない」より) 5月15日 季節が進んでいる。ジャスミンの剪定をした。花の終わった枝をバッサリ切ると、その奥につぼみがあらわれて、また新鮮な気分にしてくれる。 冬眠から覚めてしばらくたち、食欲の出てきた亀にかまぼこの切れ端をさし入れる。が、今日は反応が鈍い。少し顔を向けるだけで口を開けもしなかった。「どうしたのかしら。私のこと忘れちゃったのかしら」 と思案するが、亀には顔色の変化もないし表情も読み取れない。 しばらく様子を見ることにして剪定を続けた。鋏を使うたびにジャスミンの花が亀の水槽に降った。作業が終わって、水槽を洗おうと、花だらけになった水槽から亀を出した。ついでに歯ブラシで亀も洗う。すると甲羅の皮がめくれているのを発見、脱皮が始まったのだ。はじっこの小さい亀甲模様も、ど真ん中の大きい亀甲模様も薄皮一枚がはがれ始めている。今朝の元気のなさも、引っ込み思案な態度も合点がいった。彼は成長しようとしているのだ。 ひと回り大きくなる時に内省的になるのは、人間と同じだな、と思う。人と違うのは、亀は大人になってもたぶん一生、大きくなり続けるというところだ。半年を寝て過ごし、何度も思春期のような状態を迎えて成長するなんぞ、うらやましい気もする。 亀は亀なりに悩みもあるのだろうけれども—。 5月10日 春も盛りとなり、毎朝パンジー・ビオラの花殻摘みをする。終わった花を摘んでおくと、また次々咲いてくれるからだ。 花殻摘みをしていると、目の仕組みの不思議を思う。 朝一番に花壇を見たときは、花しか見えない。「おはよう」「よく咲いたね」と声をかける。見ているうちに終わってしぼんだ花を見つけ、ひとつ、ふたつと摘み取る。それ程ないと思っても、摘み摘みしているうちに、あちらにもこちらにも目に入り、脳内の終了花パトロールモードにスイッチが入ったのがわかる。 ひととおり終えると、脳はまた通常モードになり、ふわっと全体を見て、香りを楽しんでいる。 本を読んでいても、同じ様なことがある。以前長篇を読んでおもしろかった作家の短篇集を手にとったときだ。 一作目、「アレ、おもしろかったはずなのに…? この作品だけかしら」と思い、途中でとばして二作目、腑に落ちず、とばして三作目。ここらへんからエンジンがかかり、世界に入ってゆけるようになる。そこからドシドシと読み進め、堪能して解説まで読んで納得し、とばし読んだ作品が惜しくなる。再読。すると今度はスッスと文章が頭に入っていく。 最初は見えなかった花殻が、次々見えるようになる花殻摘みのときと同じだなあ、と思うのだ。 5月9日 あれよ、という間に4月が過ぎた。ゴールデンウィークがやってくる少し前に、群馬の四万温泉へ出かけた。昨年はちょうどその頃、いつも泊る宿は万朶の桜だったが、今年はちらりほらりだった。おかみさんに聞くと 「鳥のうそが、今年は花芽をあらかた食べてしまって、これで満開くらいなのです」 とのことだった。今冬は寒さが厳しく雪が多かったので、鳥もおなかがすいていたのだろう。奥四万湖畔では、急な崖にやっと萌え出た草を、ニホンカモシカが体を斜めにして食んでいた。 春になったとはいえ寒い日が多く、春気分に浸りきれぬまま出かけそこない、足立都市農業公園の八重桜を見はぐった。 しかし、つばめは勤勉に飛来し、巣作りをしている。今日、店の3階の窓を開けたら、目の高さにある電柱変圧器に雀が2羽来て、可愛い声で鳴き交わしながら、せっせと子造りをしていた。 今春はジャスミンが当たり年のようで純白の花がどっさり咲いた。バラはあと1・2週間で満開になるだろう。堀切菖蒲園の菖蒲は6月10日前後が見頃だというから、あと1ヶ月だ。 日常は進展している。目を凝らして見ていないと、気づかず通り過ぎてしまう日常を、大切に見守ろう。 4月のユーコさん勝手におしゃべり |