ユーコさん勝手におしゃべり

11月28日
 先日、千葉・佐倉の国立歴史民俗博物館へ特別展の「武士とは何か」を観に行った。店主は今、弓道にはまっている。今回の佐倉行きも、そちらの興味からだ。
 弓道を店主に勧めたのは、古くから知り合いの牧師さんである。職業は牧師で、本業の方でももちろん勉強家だが、趣味は古墳巡り、古事記も日本書紀も原文で読むというすごい人だ。日本の古典を読むうちに頻出する弓の記述に魅かれ、道場に赴いたそうだ。狩猟も農耕も自ら実践する彼は弓にもはまり、段位をとってから店主にもその良さを説いた。店主が近くの弓道入門教室に行ったのが今年の6月、それから週に3回以上は道場通いで、今日は初段の検定試験に出向いている。
 そして佐倉だが、店主はその牧師さんを歴史民俗博物館に誘った。目的は懇切丁寧な解説だ。何につけ勉強家の氏は、今回も館所蔵の「結城合戦絵巻」に合わせ、結城合戦絵詞の資料を作成してくださった。
 ついて行った私の目的は、歴博もさることながら、佐倉城址公園の落葉。桜の見事な公園で、今冬の飼い亀の冬眠用ふとんを調達しようともくろんだ。
 しかし当地の桜はすでに葉を落とし終わっていた。裸となった枝にはびっしりと来年の花芽がついていた。桜の木の勤勉に脱帽。
 実際の葉は手にできなかったが、博物館で見た版本伊勢物語(1608年)の挿絵は良かった。「私の情熱で色が変わりました」という和歌とともにもみじの一枝を婦人に差し出す男性の図だ。
 「うまいこと言うねぇ」である。しかし当時であれば、O.K.であっても、No, thank youであっても和歌で返答しなければならないのだろう。悩ましいことだ。
 そして亀の冬眠用ふとんは、今朝解決した。自転車で買い物に出かけると、視界に黄金色が飛び込んできた。もとは大きなお庭のあるお宅が、その敷地を、道路に面した所はコンビニに、その奥は駐車場にしたらしい。敷地のはじに大きなイチョウの木が数本ある。「月極駐車場」と書かれた看板の奥は、黄金のじゅうたんになっていた。駐車場に整備はしたがまだ車は一台もなく人もいない。持参のビニール袋を手にちょっとおじゃまする。黄金に燃える大イチョウに「ありがとうございます」と声に出してあいさつして、きれいな地面の葉を拾った。
 今冬、亀は、黄色いイチョウを背に乗せて眠ることになった。

11月20日
 木々が見る間に色づき始めた。黄からオレンジへそして紅へ。
 開店前のわずかな時間、目を楽しませに水元公園へ出かけた。適当に歩いて行くと、小川があり、10人ほどのおじさまたちが静かに釣り糸を垂れている。
 そして、そのすぐうしろにスッと背すじを伸ばして立っているのは一羽の青鷺だ。背丈はちょうど座っているおじさんたちと同じくらい。最初は「えっ」と思ったが、彼らには日常の光景のようで、鷺はおじさんたちの列の後ろを時々スッスッと歩く。右から左へ、左から右へ。まるで写生の授業に子供たちを引率してきた教師のように、おじさんの方に目配りをしながら歩いている。面白く見ていたら、一人のおじさんの細い竿に小さな魚がかかった。さっとはずして地面に置くと、鷺は素早い動きで小魚を飲み込む。そして何事もなかったように、またおじさんたちの監督をしている。誰も何もしゃべらず、ただなごやかな空気が流れていた。
 小川の反対側から観察しながら、目がカメラだったらなぁ、と思う。
 これ以上近づくことも音をたてることもできない。覚えて帰って書くしかないなと公園を後にした。

11月11日
 そこかしこに落ち葉が散っている。道にも毎朝色づいた葉が降り、掃いている。少し街を歩けば、公園や街路樹も紅葉し落葉しはじめた。葉っぱは手の届くところにたくさんある。
 「しかし、」と悩む。この時期私の頭の中の半分を占めるのは、飼い亀の冬眠用ふとんである。亀は冬中を寝て過ごす。眠っているものに意識はないが、やはりきれいな落ち葉のふとんにくるまって横になってもらいたい。
 だから、落ち葉はすぐ周りにもたくさんあるけれど、あえて手を出さず、熟考する。
 ことしは小石川植物園か、新宿御苑か、あるいは上野公園か水元公園、それとも養老渓谷まで行こうか、と。決まればビニール袋をもって出発するだけ。亀はまだこちらを見上げてカサカサ動いていて、寝る気配はない。
 さてさてどうしようかな、と、毎年ながら楽しみなことである。

11月7日
 よく晴れたので植え替えをした。日照りの夏の罪ほろぼしをするように雨がちの秋が続き、ようやく帳尻が合ったのか、穏やかな日和がやってきた。花壇も秋冬調になった。
 昨日今日は、店舗の裏手にある地区センターで地場産業展という催しがあり、外で町会や子供会の模擬店もでている。
 今朝店にいると、道の方から三歳くらいの女の子が駄々をこねる声がした。
 「カキ氷が食べたいよぉ」
 お父さんらしい声が、「今日はカキ氷はないんだよ。アイス買ってあげるから、行こうね」
 「ヤーダー カキ氷が食べたいよぉ」
 と続きながら遠ざかった。
 この時期の屋台にカキ氷はない。やきそばや豚汁など、あたたかいものだろう。
 でもきっとあの女の子の中には、夏のお祭りかイベントで、
 「すごいねぇ」 とか言いながらパパとママと、お外で、大きなカキ氷を崩しながら食べた記憶が鮮明にあるのだ。彼女にとって夢のような時間だったに違いない。
 たぶん来年の夏まで再び出会うことのないシーン。でもその時彼女は、もう少し大きくなっていて、目の前のカキ氷は少し小さく感じられるんだろう。
 一期一会 ということばが、駄々をこねる女の子の声に重なってきこえた。

11月1日
 傍若無人に冬が来た。
 つい先日まで店の前には朝顔が咲いていた。普段なら山の紅葉に心わき立つ頃だったが、外で飼っている亀も寒そうにしていないので、紅葉狩りも先送りにしていた。天候が崩れがちになり奥日光行きの機を逸したかと思ったとたん、東京にも木枯らしが吹き、秋をとばして一気に冬となった。
 急な冷え込みにあわてて暖房機を出した。室内も冬向きに模様替えをしていたら、商用で2カ月オクスフォードに行っていた家人が帰ってきた。半袖で室内をうろうろしているので、
 「寒くないの?」 と聞くと
 「東京は暑いわ。あっちは朝0℃くらいだったから」 という。
 こっちは急な寒気に参っているというのに、「暑いから暖房なんかいらない」そうだ。慣れはおそろしい。
 むこうで撮った写真を見せてもらうと時々空がうつっている。
 「天気の悪い日が多いから、たまにきれいに晴れてると空を撮りたくなっちゃう」んだそうだ。
 人の気持ちって、ふしぎだ。

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