ユーコさん勝手におしゃべり

5月23日
 「踊ってますね」
 朝、店横で、終わった花の花柄摘みをしていたら、笑顔の老婦人から声をかけられた。振り向いた私に、「きれいね、踊っているみたい」と、もう一度笑顔をかけてくれる。
 微風にゆらぐパンジー・ビオラをいつも「笑ってる」と思っていた。
 「あゝ、踊ってもいるのか」 と認識を新たにした。

5月14・15日
 北関東への旅に出る。例年なら金精峠を通って奥日光へ行く頃だが、今年は急にやってきた寒さと雨によりコース変更を余儀なくされ、栃木から福島へと回った。宇都宮・大谷から川治温泉、翌日大内宿の一泊旅である。前日から出発時までさんざん降っていた雨も、徐々にやんできた。雨の上がるにつれて景色はみるみる姿を変える。山は黄緑に輝く。高い木のてっぺんまで山藤が咲きのぼる色彩に溢れた5月の野山だ。
 川治温泉に到着し、大浴場へ。露天風呂につかっていると、
 「アレ、何かいる」 とちょっと離れた川辺寄りにいたおばさまが声を上げた。
 「サルよ、ほら」 と言うのにつられて木々の揺れている方を見ると、大きなサルが何か食べている。「何の実かしら」と初対面のおばさまと並んでサルを眺めていると、もう一匹やってきた。目の前は満開の山藤だ。
 「ア、山藤。山藤を食べているんじゃないでしょうか」 とおばさまに声をかけて、二人でよーく見てみると、サルは山藤の花をひとつずつつまんで食べているのでした。やがてもう一匹小さめのも合流して、都合三匹のサルを見ながらの入浴となりました。
 翌日は福島へ向かう。北上し、高度を上げる。アルバムの頁を戻すように季節は次々めくられる。日本が南北に、そして高低に幅のある国であることをありがたく思う春の旅である。

5月3日
 毎週毎日本を送っていると、行ったことのない街にも親しみを感じるようになる。大きな大学のある地方都市の場合が多い。同じ町名宛の郵便をしょっちゅう出すからだ。そんな町のひとつがつくば市天沼だった。
 それが先日足を踏み入れることになった。筑波実験植物園に行く機会があり、それではついでにと、インターネットでつくば大学そばのとんかつ屋さんを調べて、昼食をとった。大学の周りは学生さんの住むようなアパートがたくさんあった。
 「ここが天沼の町かぁ」
ときょろきょろしていると、何度も宛名で書いたアパートの名前を発見した。お客様の名前までは覚えていない。あるいはうちで本を買った複数の学生さん、または研究者の方が住んでおられるのかもしれない。車窓から見上げたアパートの表札に
 「青木です、ど−も」 とあいさつして通った。
 夜、店に戻って、ちょうどつくば市天沼の○○荘から注文が来ていないかしら、と思ったが、まぁそんなわけはない。
 とりあえず、またのご来店、お待ちしております。

5月3日
 つばめが来たよ。そのかわいく鳴き交わす声に、どうしていままで気がつかなかったのか。堀切菖蒲園駅の改札を出たところ、ガードの下に立派な巣ができていた。書庫への行き帰りの楽しみができた。
 バラの開花も始まる頃、お日様の動きも夏バージョンになった。北向きに建てられた店舗にも、夏の間だけななめに西日が入る。本が焼けないように夕方、テントからUVカットのシートを垂らす。その作業が今日から始まった。鼻をくすぐるジャスミンの匂いにぐるっと一年がまわってきたのを感じる。同じようで違う一年。店の本は増えもしないし減りもしない。去年と同じ棚のように見えるが、確実に数千冊は入れ替わっているはずだ。
 棚の写真を撮っておいて、一年後間違い探しをしたらおもしろからん。

4月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「おしゃべり」