ユーコさん勝手におしゃべり

11月23日
 11月15日、都立水元公園へ行く。天気予報をみていたら、この日は「今年さいごのあたたかな日」になりそうだった。穏やかだったこの秋も急転直下、次の日から寒気が来ると、どの放送局の気象予報士も断言した。それでは散策に出ねばと前日からせっせと仕度をした。15日は小春日和、まったくの無風だった。朝から自転車にまたがって、川を越えて水元公園へ。広い園内を見て回るには自転車が一番だ。途中お弁当を買って、正面入口から入り陽だまりの川辺で腹ごしらえ。メタセコイヤの林を通ってかわせみの里へ。ものすごい望遠レンズをかまえた人がたくさんいるので、かわせみ飛来ポイントだということがすぐわかる。毎日数回やってくるそうだ。施設の係の人曰く、「来たことは、カメラマンたちのレンズの向きでわかります。」とのこと。「森の中でも珍しい野鳥がいるかどうかは、肉眼よりもカメラマンのレンズの構え方でわかりますよ」とおっしゃっていた。
 水生植物園の沼にかかった木道を渡り、再び川辺の道へ出る。コサギが、飛べることを忘れたように自転車の横を急ぎ足で歩く。純白のサギで黒い細い足の足先だけがレモンイエローだ。ハイヒールを履いた淑女のような姿としばし並走する。川辺は釣り人がたくさんいる。走っていると数メートル先に木の上から大型のシラサギがワッサワッサと舞い降りた。見ると、道の脇で常連らしき釣り人がクーラーボックスを開けていた。本日の釣果をシラサギ氏に献上するらしい。おじさんも鳥もすっかり手慣れた感じの動作だったが、道に降りたったものの、クーラーボックスに顔を入れようとはしなかった。「私が見ているからか」と気付き、そっと脇道に入って退散した。彼らには彼らの仁義があるのだろう。
 釣る人、撮る人、描く人、はしゃぐ犬、誰もが誰の邪魔もせず、ゆったりと穏やかな公園日和だった。
 案の定、その翌日から寒気が一気におりてきて、日曜日には東京も木枯らし一号が吹いた。北に筋状の雲のある冬らしい天気図をみるようになった。
 初冬の日々、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 今日、飼い亀の水槽に冬眠仕度を整えました。

11月13日
 習慣はおそろしい。
 昨日電器の模様替えをした。ひもをひいて灯りをつける方式の蛍光灯を、壁スイッチ式にした。一部屋の一ヶ所だけのちょっとした変更だ。店主が作業するのを少し手伝ったりもしてどこがどうかわったのかは呑み込んだ。それなのに、暗いその部屋に入るたびに手が勝手に、今までひもの垂れていたあたりに伸び宙をさぐっている。自分のまぬけな姿にテレながら壁のスイッチをONにする。昨日から何度繰り返したかわからない。一人で暗く恥じていたら、今朝、店主が同じ動作をするのを目撃した。自分で工事しても、だめなんだな。
 人がどんな生活をしているのかの証拠は、体の動きの微細なところに埋め込まれていくのだろう。

11月10日
 今日は冷たい雨が降った。店は開けず書庫で夕方まで仕事をした。店へ戻る時、雨の上がった薄暮れの道の向うから子ども用自転車に乗った幼稚園か小学校低学年くらいの男の子がやって来た。その子が
 「寒ーい。もしかしたら今日、雪降るかもなあ」 と言った。
するといっしょにいたその子の祖母風の婦人が、「そんなぁ、そんなことないよ」 と答えた。
 まだ何回かしか経験したことのない冬の記憶か、絵本か何かで見た寒さの光景から導かれた彼の輝くことばに、思わず頬がゆるんだ。
 もっと長く人間をやってきて積まれた記憶から「11月の東京に雪は降らない」と言下に否定するのはもったいない。少年はトレーナー姿だった。もう出てしまったその祖母のことばを「寒くなったねぇ、ジャンパー着ようか」と、タイムマシンがあれば、置き換えたくなった。
 ここ二・三日急に冷え込んできた。飼い亀の冬眠仕度に紅葉の落ち葉をと半月くらい前から心がけているのだが、今年は紅葉とうまくタイミングが合わない。紅葉見物といっても目的は亀の冬眠用のふとん調達なので、葉は落ち始めている方がいい。天にも地にも赤、黄色、が望ましい。9月の気温の高さから紅葉は遅めと聞いていたので、いつもより数日遅く、10月23日に奥日光に行ってみた。黄色はまずまずだったが、赤はまだ始まったばかりで、葉は皆枝についていた。その後11月最初の週末に「今、見頃です」と報道されていた。
 二回目のチャレンジは11月5・6日の茨城行。花貫渓谷、竜神峡と前もって計画を立てていたが、こちらもまだもみじの葉は青かった。五浦の公園で室内飼いのうさぎへのお土産に、松ぼっくりをいくつか拾った。これを煮て天日に干すと、うさぎのかじり木兼おもちゃとして役に立つ。景色と温泉だけ満喫して帰宅。
 今年、亀のふとんはもう少し待って東京の桜の落ち葉にしよう。

11月2日
 今朝はじめて土手の朝顔が咲かなかった。うちの店の前は京成電鉄の土手になっている。右側も左側もコンクリートで固められ駐輪場になっているが、何故か家の前の一画だけ土の空間がある。何年か前に入谷の朝顔市で買った朝顔の鉢が置かれ、そこから種がこぼれて毎年自生している。京成電鉄の駅のホーム下の土手なので誰の手も入れられずつるは縦横無尽に這っている。7月のはじめ頃京成が土手の草刈をするので、いったん出た芽はその際切られ、再び伸びる。だからいつも他の朝顔より花を持つのが遅く、その分秋口まではつらつと咲き続ける。
 昨日はまだいくつも咲いていた。このところ朝晩冷えるなとは思っていたが、目に見える形で「秋になった」と宣言された気がした。
元気に動いてはいるものの、もう二週間程前からエサを食べなくなった飼い亀の冬眠用に、落葉のふとんを用意してあげよう。

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