ユーコさん勝手におしゃべり

7月27日
 それでも夏は来る。
 終わらぬ梅雨に心配していたが、長く続いた雨空のさいごの日だった23日の晩、「月下美人がいっぱい咲いているよ。」と電話があった。雨上がりの夜7時頃、自転車を走らす。5分ほど行った知人のお宅の玄関先に、数人の人だかりがあり、その輪の中に白い月下美人が立っていた。露に濡れた一株の木に十数個の花がいっせいに開花を宣言している。一年に数時間しか咲かぬ花の甘い香りが見物の人々を包んでいた。
 それを合図にしたかのように翌日から一気呵成に夏が来た。
 翌24日は葛飾柴又の花火大会、26日は足立千住の花火大会、そして明日28日は隅田川花火大会だ。江戸川・荒川・隅田川と下町の空は一日おきに花火が咲いている。

 暑中お見舞い申し上げます。冷たい氷水でも飲みながら、夏も夏なりに、愉しい読書生活を過ごしましょう。

7月22日
 なかなか梅雨が明けない。雨の多い日々を過ごしているうちに7月も下旬となった。来週こそ夏のお日様が拝めるだろうか。
 梅雨の合い間をぬって、先日河口湖方面へ行ってきた。中央自動車道を降りて、まずはうまいと評判の富士吉田のうどんをいただく。食堂に入ってセルフサービスのお水を飲んで、びっくり。
 「甘い!」
冷たいお水がこんなに甘くておいしいなんて知らなかった。はじめハーブウォーターなのかしらと思ったほどでした。うどんはおいしくて、安くて、おなかいっぱい。水がいいって、幸せなことだ。
 満腹のおなかをかかえて、河口湖畔へドライブ。公園はラベンダーのかおりで満ちていました。よくあるラベンダーのかおりの芳香剤が好きでなくて、ラベンダーは苦手、と思い込んでいた自分を反省しました。生のラベンダー畑は、落ち着く香りをただよわせています。「芳香剤はこれを目指して、今だ達せずなのだな」と思い、今までと印象が変わりました。
 そして、本日の目玉は天上山のあじさい見物。ふもとから見ると天上山は深い緑のただの山です。カチカチ山ロープウェーというかわいい名前のロープウェーで登ること数分で頂上です。お目当ては下りのハイキングコース。ちょっとぬかった道を10分ほど行くと山道の両脇は背丈程のあじさいになり、途中芥川龍之介の「惚れたが 悪いか」の碑があるところから下は色とりどり見渡す限りのあじさい山。10万本といわれるあじさいが山の斜面に咲いていました。不思議なのは、山の下からもロープウェーからもこの大量のあじさいが全然見えないということです。ふもとから見上げた人にもロープウェーの往復券を買った人にも気付かれない、内緒のあじさい、しかもほんとに美しい状態です。高いところなので8月上旬まで見頃が続くということでした。お勧めスポットです。
 夕方、また吉田のうどんを食べて帰宅。地元のうどん屋さんは、昼しか営業していないところが殆んどで、夕方やっているところを捜すのが大変でしたが、道ゆく人に聞くと、込み入った道を親切に教えてくれました。
 おなかいっぱい花いっぱいの、いい休日でした。ごちそう様でした。

7月13日
 梅雨らしい天候が一週間続き、つい心も湿りがち。
 気分転換に午前中の晴れ間を狙って堀切菖蒲園まで小散歩。
菖蒲田は来年に向け刈り取りが進み、花はもうない。週末台風接近の報道で今日は刈り取り作業も休みなのか、人の気配も無い。歩いていると、オナガがすぐ近くの木にとまった。美しい薄青の姿と長く黒い尾を見せてくれ、ギイギイと悪声で鳴きながら飛び立った。ネコもカメもゆったりと園内の見回りをしている。
 何もないシーズンオフもまた好しだ。せいせいと気持がいい。萩のトンネルができ上がって、つぼみがつくのを待つばかりになっているのを確認して帰途に着いた。
 転換された気分で、さぁ仕事をしよう。

 *話は変わって、『古本屋五十年』(ちくま文庫)・『古書肆・弘文荘訪問記-反町茂雄の晩年-』『ある古本屋の生涯-谷中・鶉屋書店と私』(日本古書通信社)のカバー画をかいた青木有花の新作イラスト数点が銀座の[画廊るたん]で来週(16日から21日)開催の元展にて展示されます。お近くへお越しの際はぜひお立ち寄りください。

7月5日
 先日、パン屋さんに行きレジに並んだら、私の前にいた常連さんらしいご婦人が店員さんと挨拶をかわし、パンを3品買った。するとレジの会計が777円と表示された。店員さんが
 「あら珍しい、いいことありますよ」 と言う。
ご婦人が 「えっ ほんと、いいことあるの?」 と返すと
 「いえ、特には…ないんですけど…、でも何かラッキーじゃないですか」 と慌ててとりつくろっていた。
 ご婦人はほほえんでパンを受け取りながら袋の中身を見て、「この組み合わせを覚えておけばいいのね。毎日これを買えば、毎日、いいことありますよって言ってもらえるわ」 と言っていた。
 パン屋さん中が明るくなったようなよい空気が流れた。さて、私は、というと、会計609円。特に何の会話の種もなく、そのパン屋さんをあとにした。そしてちょっと用を足しにスーパーに寄り、3品買って、レジに行くと、レジの人が、「609円です」 と言う。
あれ…、もらったレシートにも609円と書いてある。
 「今日は、何か、ゾロ目の日か」
おさいふに入った2枚の609円のレシートに、プチラッキーを感じた梅雨の一日でした。

7月1日
 「あの頃の最新、」
と、まず思った。古本屋をやっていると「あの頃の最新」を目にすることは多いし、そこを狙って頁を繰っていれば驚くことはない。でもその一葉は、ごく普通の堅い本の頁の間からフイに出てきた。ハラリとおちた栞には「ハーレクインロマンス」と書いてあり、スタイルの良いロングヘアの女性が英字新聞を読んでいる後ろ姿の写真が入っている。コピーは「あなたは、まだ知らない。」 今見ても違和感はない。何気なく栞を裏返すと、シルクのパジャマの上だけを着た女性が立ったまま手に電話を持ち、電話をしている。顔はうれしそうに微笑む口もとだけを写している。フローリングの床にイスが置かれ、彼女はイスに片足のひざをのせている。幸せそうな一枚。しかし、この写真の真ん中に写っているのは黒電話なのだ。しかも、電話からは長々とコードがのびている。
 時代が、かっこいい一枚の中に、はっきりと写ってしまった。それも、一概に「古い」と断ぜられない「あの頃の最新」を感じさせて。
 女性は左手に電話機本体、右手に受話器をもっている。それ以前、電話は家族のものだった。居間のそばとか玄関あたりに鎮座していた。動かす権利は、なかった。写真の彼女が自分のものとして電話を持ち歩いているのは、彼女にその権利があるからだ。余分な家具のないフローリングの住まいに一人暮らしなのかもしれない。「自立した女の 自立した恋。なんとカッコイイんでしょ!」と、この栞はうたい上げている。
 電話を、自分のものにすることが、ステータスだった時代が、ここに写っていた。仕事の手をとめ、この一枚の栞に見入ってしまった。そういえば、大売れに売れたハーレクインシリーズでは、テーマソングも大ヒットし、毎日のようにテレビで流れていたっけ。
 この栞、捨てがたくなってしまった。何に使うわけでもないが、しばらくとっておこう。

6月のユーコさん勝手におしゃべり
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