ユーコさん勝手におしゃべり

10月30日
 夜外に出ると、三日月がきれいだった。
 雨の多かった10月も末になってやっと秋晴れが続くようになった。昼間は小春日和でも、朝晩は既に冬の寒さだ。
 そんなことで、毎年見ている荒川土手のコスモスを今年は見損なった。いくつかの公園では、もう来春に向けて菜の花の種がまかれている。
 好天の土手を海まで自転車で走る。高くて気持ちのいい空に、鶴の意匠の凧が飛んでいた。脚まで精巧に作られていて、通り過ぎた後も、何度も振り返って、大きく広げた白い羽に、アクセントの黒いラインと黒く長い脚を確認した。
 土手や公園の広場で、手製の凧や紙ひこうきが飛んでいると、いい眺めだな、と思う。普段は意識しない、空のひろさを感じる。
 帰宅して、半日仕事をする。外に出ると、月が出ていた。
 地面は、昼間見ても夜見てもそう変わらないのに、空はガラリとデザインを変えてくる。
 家に入る時、夜中にもう一度、月を見ようと思った。

10月24日
 今秋、東京はお日様に見放されている。
10月に入って、一日中晴れ、という日は数えるほどしかなかった。
 それでも、夏の花から秋冬の花壇へ少しずつ植え替えをした。飼いカメはもうエサを食べず、朝晩は家に入り、自分で暖かい場所を探してはもぐっている。
 夏の花の名残と 秋の草花の咲き始めでにぎわっていた小庭は、勢力図が徐々にかわって、いつの間にか静かなたたずまいになっている。
 先日所用があって、伊香保へ出かけた。バスで行き翌朝電車で戻るとんぼ返りだったが、温泉街の宿から色づきはじめた木々を眺めた。
 ふもとから山へ葉の色が変わってゆく。標高が高いところでも、もみじは地面から見上げるとまだ青い。それがホテルの上階から見下ろすと、上の方はもう紅い。おかげで目が色に敏感になった。
 地元に戻っていつもの駅から少し歩き、店の小庭が目に入った時、一晩いなかっただけなのに自分の仕業が新鮮に見えた。旅の効用かもしれない。 

10月9日
 街角に金木犀の香る10月がやって来た。
 9月の末日には、「5月と10月は一年のうち最も過ごしやすい気候だ」と10月のこのページをはじめようと考えていた。
 なのに、初日に突然真夏日がやってきた。好天の土曜日、店用の文具を買いに浅草橋まで行く。
 空には秋のひつじ雲が浮かんでいたが、陽ざしのジリリと暑いことといったら。隅田川沿いのスポーツセンターの横を通る時、屋外プールがやっていなくて、グラウンドから運動会の歓声が聞こえてくるのが不思議に感じられた。
 とはいえ、日陰に入れば風は涼しい。都会の夏は、日陰でも夜でも暑いことを思えば、日なたと日陰の温度差は、夏に郊外に行った時のようだった。
 異様な暑さのあとは、12月並みの寒気が雨まで連れてやってきた。
 傘を差し上着を羽織って、六本木のサントリー美術館へ「大阪市立美術館コレクション・なにコレ」展を観に行った。地下鉄に乗って、乃木坂駅から地上に出る。冷たい雨の街を少し歩き、美術館のある東京ミッドタウンについた。
 おしゃれな店舗がズラリと並ぶ洗練のショッピングモールをぬけてゆく。開店前の時間で、ほどんど人通りはない。 と、そこへ、保育園用の大型ベビーカーがやってきた。向かい合わせに4人が座るタイプと、多人数が立って乗る箱型のやつである。雨降りだからお外の公園ではなく濡れないビル内のお散歩にしたのだろう。保育士さんたちが引率している見慣れた光景だけれど、子どもたちの両側に続くのは、色とりどりのブランドバッグや香水の瓶やドレスのショーウィンドウだ。ベビーカーのあとしばらくして、年中年長さんたちが歩いてやってきた。子どもはどこでもかわらない。あどけない顔でおしゃべりしている。
 彼らとすれ違った後、エレベーターで3Fにあがって展覧会を観た。
 大阪らしい機知にとんだコレクションで、とてもおもしろかった。ゆったりとした展示の工夫も充実していた。
 そして、展覧会を観た日から、街歩きや土手散策の時の視点がちょっとかわった。自分が子どもでベビーカーの中から日々ここを眺めて育つとして、ちょっと低い位置から景色を見る。見慣れた家並みも行き交う人たちの風体も、新鮮に見える。
 月がきれいな季節だけれど、今晩はまた雨が降っている。
 明日10月10日は満月、晴れて、丸い月が見られるといいな。

9月のユーコさん勝手におしゃべり
それ以前の「おしゃべり」