ユーコさん勝手におしゃべり |
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7月31日 カメ、産卵。 今月2度目の産卵は、真っ昼間におこった。昼前に店を開けた時には、何もなかったのに、2時過ぎに店主が小庭へ出てみると、浅い水槽の中に白い卵がたくさん並び、水槽の外にもひとつころがっていた。 「カメ、うんでるよ」 と呼ばれて、私も外へ出る。 卵は生みたてで、カメはまだ足をうしろに伸ばしてふんばっていた。 プチトマトの入っていたプラスチック容器に水を入れ、割り箸でたまごをつまんでその中へ入れる。ひとつ、ふたつ… 9個の卵がケースの中へ。よく見るとカメの体の下にもひとつあった。全部で10個、黄色がかった白色の小さなラグビーボールがプラスチック容器におさまった。 誰にも何にもならない無精卵なので、捨てるしかないが、カメさんが がんばったしるしに、「7月31日14時 産卵」と書いた紙をプラ容器のふたに貼って、カメの小庭の隅に置いた。 さっそくカメの友達(?)のおばさんが、前を通り、 「えらいわねぇ、たいへんだったねぇ」 とカメをねぎらって行った。 産卵からしばらくたって、ボーっとしていたカメが急に、 「私、食べます。食べたいです。」 と態度を表明した。今まで甲羅の中は卵でいっぱいですっかり忘れていた食欲が復活したらしい。 3時には、あさりのむき身とカメのエサをペロリとたいらげた。 4時半を過ぎると、いつも寝るとき入っている深い方の水槽のホテイアオイの下に潜り込み、ゆったり身を沈めていた。 コロナ騒ぎもオリンピックも知らず、いつものように、カメの夏が過ぎてゆく。 7月25日 24日は待ちに待った満月。南向きの窓から見える月はまぶしいほどの輝きだ。 前の晩は雲が多くて見えなかった星も、今日はよく見える。 木星・土星・月の空の模様を、室内の電気を消して眺める。残念ながら夏の東京の夜空に他の星は見えない。でも星を見慣れない私には、かえってわかり易くてよい。 気が済んだら手元のライトをつけて本を読み、眠くなったらスイッチを消して、空を観察して目を閉じる。 数時間して、また空を眺め星と月の居場所を確認して、眠る。 そしてまた、と数回繰り返すうちに、月が窓枠の範囲内から姿を消し、夜が明ける。 無風晴天の一夜、さいごまでしっかり月と星の動きを見ることができた。 星を見るなんて、ひたすら眠くて 朝まで前後不覚に寝ていた若い日には考えられなかった。歳を取って、夜、目が覚めてしまうようになったことの効用だ。 朝、まだ涼しいうちに起きたついでに、自転車で荒川土手を海まで走る。 梅雨明け後の猛暑で、小庭のてんとう虫とアブラムシは夏眠休戦中なので、土手の野原でのてんとう虫採集は無しである。 グラウンドでは、少年野球やサッカーチームが続々集まって活動を始めていた。 8時に帰宅する時にはもう昼間の日差しだ。今日も暑い一日がはじまる。 台風情報も出ているけれど、今晩は、また月を眺められるだろうか。 7月22日 今週は星の週。 日曜の夜半、南向きの寝室で眠っていると、星のまぶしさを感じた。 いい南風が吹いているので、窓を網戸にしてブラインドを下ろしていた。風が入るようにブラインドの下に少し作った隙間からのぞく星明りに気づいて、ブラインドをそっとあげてみた。 星がひとつ、強い光を放ち、遠くに見えるスカイツリーのてっぺんの灯りよりも目立っている。その右にそれより控えめな星がひとつ。視界に月はなかった。 朝、早速調べてみる。それはどうやら木星らしい。24日の満月の晩には、木星・土星・月の並びが見られるという。 翌日、同じようにして眠り、夜中に 「あぁ、今日もここにある」 と安心する。 この不確実な世の中で、星のまたたきだけは毎晩かわらない。暗い中、ブラインドをあげ、じっくりと見た。月はまだこの窓からは見えない。 次の日もその次も、ちょっと疲れて、本も読めずに寝てしまっても、ふと夜中に、明け方に、ブラインドをあげて空をのぞくことは忘れない。 窓枠いっぱいに左から右へ、時間を追って星は場所をかえてゆく。 昨晩から月も登場した。月光がまぶしいほどに膨らんでいて、わくわくが高まってきた。 24日の木星・土星・満月の揃い踏みが楽しみである。 乞う、晴天。 7月17日 朝夕にセミが鳴き出し、梅雨が明けた。日差しは思いっきり強い。 おとといまで、堀切菖蒲園駅のつばめの巣には、大きくなったつばめのヒナが二羽いた。たいくつそうに横を向いたりうしろを見たりしている。小さいヒナがたくさんいた時の様に親鳥も頻々とは来ない。 性格なのか体格なのか二羽だけで仲良く、同じ向きに並んでいた。 つばめの巣を見た後、堀切菖蒲園まで散歩に行く。入口に「株分け作業中です」と掲示があり、通行止めの歩道があった。 園芸家の方たちが、しゃがんで一株ずつ丁寧に分け、全てに名札をつけている。三年たつと株分けされるので、すでに掘り取られた菖蒲田もある中、遅咲きの菖蒲がチラホラと大輪の花を咲かせていた。 遅く咲いても、一輪ずつは美しい。 一番花は、報道までされるのに、遅咲きは損だなと哀れを感じた。 そして今朝、梅雨明け宣言を聞いていたかのように、駅舎のつばめが飛び立っていた。巣はもぬけのカラとなった。 遅咲きは哀しい、と思っていたけれど、いなくなってみると、さびしい。 7月7日 前日から降り続いた雨が一時的にやんだ3日の朝、カメが産卵した。先月末から夜は家に入れていたのだが、2日前から破水がはじまったので外に出していたのだった。 小庭の隅にあざやかな白色の楕円が9個、無造作にころがっていた。 うずらの卵より一回り大きめで、甲羅のたて径23センチの中によくおさまっていたものだ。 「ごくろうさま」と声をかけても、カメは卵に何の関心も示さない。 冷凍アサリをいくつか解凍してあげると、うれしそうに首を伸ばして食べたが、4個目で、「もういらない」と手を出して拒否した。まだお腹の中が、落ち着かないのだろう。 カメの産卵の翌日4日の夕方、雨で店を閉め、2階で仕事をしていると、店の裏手でやけに騒がしく鳥の声がした。 店主が声のする方の窓をそっと開けると、地面にスズメの子がいた。親たちは必死で励ますが、ヒナはうまく飛べずに雨にうたれている。店主は心配でたまらず、拾って助けてあげよう、と言う。私は、親鳥が何とかするだろうから手を出さないほうがいい、と言った。押し問答している間にも雨は降り続いている。だんだん暗くもなってきて、親鳥たちの声も小さくなってゆく。それに加えて、スズメのいる店と隣家との間は、野良猫の通り道である。 店主は外へ出て、ヒナを手の中に包んできた。夜になり、親鳥の姿はない。 インターネットで調べると、親鳥は4日はヒナを探しに来るというので、ヒナを抱えて外に出る。店主が小庭に作った屋根付きバーゴラの木の桟の上に、ハンギングプランター用のヤシの実マットを置き、その横にヒナを置いた。ヒナは警戒して首だけマットに乗せて体は外に出していた。 早朝、様子を見に行くと、ヒナはマットの中にチンとすわっておとなしくしていた。家に入ってしばらくすると、外が明るくなり、小鳥の声がしてきた。 親鳥とおぼしきスズメの声が大きくなる。そっと窓から外をのぞく。はじめ黙っていたヒナも呼応して、小さな声をあげ始める。親も気付いているようだが、なかなか救いに来ない。屋根の下は入りにくいのかと、店主が手でヒナを抱いて、屋根のないカメ舎の上のバーゴラの方にヒナを移動させる。 だが関門があった。小庭のバーゴラの上には陶製のふくろうが乗っているのだ。おかげでカラス除けになっているのだが、スズメにも怖いのだろう。しかし、親は強し。しばらく様子を見てふくろうはニセモノとわかったようで、エサを運んできた。ほっとしたのも束の間、元気がでて羽ばたいてみたヒナは、ちょっと飛んで、またもや地面に落下する。二羽の親鳥は落ちた先にもついてゆき、エサを口移しに与える。路面ではあまりにも危ないので、親鳥がいない間に、店主がまたバーゴラの上にあげた。ヒナを見失った親鳥は、鳴き声を上げてヒナを探し、またエサを持ってくる。 いつの間にか、親以外にも、何羽ものスズメが周りで応援の声をあげていた。いったい何世帯が住んでいるのか、帰って来いと誘導する先は、どうやら、隣家の3階のベランダあたりだ。 何とか飛んだヒナは、隣家の2階の窓枠にかろうじてつかまった。真上から親鳥が呼ぶ。いくらか羽ばたいてみるが、垂直に上に飛ぶことはできず、ガラス面に体を押し付けるように細い窓枠に必死でつかまっている。 さて、実況中継はここまでである。じっと見ていてはやりづらかろうと、あとは親鳥と応援団に任せて、店主と私は買い物に出た。 買い物から帰ると、どうやら一件落着したようで、スズメたちの姿はなかった。 よかったねと2階に上がり、お茶を飲んでいると、小庭の側の窓の外から鳥の声がする。そっと窓を開けて、驚いた。窓の前の電線に、スズメがずらりと並んでいた。皆こちらを向き、大きな声を揃えてさえずっている。 「ヒナを助けてくれてありがとう、って合唱しているみたい」 「そうだな、こんなのはじめてだ」 と、しばらく見ていた。 「すんごくよろこんで歌っているのか、ものすごく怒って、抗議しているのか、どっちかだね。」 実際、どちらのようにも聞こえるし、見える。今でもそのどちらなのかわからない。その後はこんなスズメの訪問もなく、平和な時が流れている。 スズメの子が無事に巣に戻った翌日、店主がホームセンターでホテイアオイを3株買ってきた。カメにおみやげだそうだ。カメの水槽には陶器の浮き玉もひとつ入っているので、ただのプラスチック桶が小さな池のようになった。 店横の小庭の中のカメのスペースの中のカメの小庭。小庭のマトリョーシカ状態だ。 カメの食欲が戻り、エサをねだるようになった。「産後の肥立ちがいい」なんて、最近とんと聞かなくなった文言が、ふと頭に浮かぶ。ホテイアオイの浮袋がカメに食べられて半分無くなっていた。 7月1日 照ったり降ったり、暑かったり寒かったり、めまぐるしい。 明け方、リビングの姿見にうつった私は、長袖パジャマをうしろ前に着ていた。風呂上がりのほてった身体と夜半の体感気温の差が大きいので、半袖と長袖二種の寝間着を枕元に用意している。 夜中に暗い中ゴソゴソと半袖から長袖に着換えたらしいが、半分眠っているので記憶はない。 トイレに起きて、寝室から出た時、鏡の前を通って気が付いた。 トイレを済ませ、階段を上がりながらゴソゴソとパジャマをなおして寝た。 朝、外に出て小庭で花柄摘みをしていると、店主が、「この黒いの、てんとう虫、かなぁ」 と声をかけてきた。 「赤いのも黒いのも、いるよ」 と言いながらそばによると、ハニーサックルの葉の上に、模様のない小さなてんとう虫がいた。 「ほんとだ、てんとう虫だよ。さなぎから出たばかりだから、まだ星が出てないけど、これからお日様を浴びて、丸く大きくなって、模様も出てくるよ。」 と言う。 半月ほど前に、土手の野原でてんとう虫の幼虫を見つけて、何匹か連れて来た。小庭に放すとすぐ葉の間に隠れて見えなくなる。 どうなったかなと思っていたが、そのうちの一匹が、「元気だよ」とひょっこり姿を見せてくれたのだ。小庭のどこかで幼虫からさなぎになり、明け方私がパジャマを着換えていたころ、ゴソゴソとさなぎから出てきたのかな、と考えると、何だかおかしくて、思い出しては半笑いになる。 6月のユーコさん勝手におしゃべり |