ユーコさん勝手におしゃべり

7月23日
 最近 てんとう虫の姿をあまり見ない。
 春に土手や公園からたくさんのてんとう虫を連れて来て、店横の小庭に放った。当初はプランターによくいたけれど、梅雨に入って以降 姿を見せない。
 いつもムクゲのつぼみがつくと、ムクゲの必然のようにびっしりとあらわれるアブラムシを、今年は一つも見ないので、てんとう虫たちはよく働いているのだが、いったいどこにいるのやら。
 先日、庭から店内に入って、かぶっていた帽子をとったら、2mm程の小さな半丸がついていた。薄いオレンジ色の中に点々の柄があり、てんとう虫の赤ちゃんとわかった。外に連れて行き小庭を良く見ると、ノーゼンカズラの葉に土がついていると思ったものは、小さな幼虫だった。
 今朝、二階の窓から身を乗り出して、伸びすぎたジャスミンのつるを刈った。さっぱりとした枝の上に、つややかな朱色の大きなてんとう虫がいた。
 長雨でちょっとくさっていた気持ちが、ぽっと明るくなる。
 てんとう虫は、夏の暑い盛りには夏眠するという。
 冬は冬眠、夏は夏眠。
 今年の気候はどうだなんて、自分ではどうにもできないことには文句も言わずに、意識のある間は活動して、あとは眠っている。
 そんな生き物と同居していることを、喜んだ。

7月21日
 インターネットで売るというデジタルなことをしているが、「本」自体は徹底的にアナログである。物体である時点でアナログだし、指一本では動きもしない。
 1階から3階へ棚ごと入れ替えるという垂直移動では、肉体を酷使する。本を抜いた棚には目に見えるほこりも存在する。
 ほこりを払い、1冊ずつ積み上げて両腕で抱え階段を上る。帰りも両腕に満載で階段を降りる。
 手のかかることだが、移動のたびに出合いがある。「物体」たる本の面目躍如だ。紙の手ざわり、自然に目に入ってくる表題たち—。
 実際に手をつける棚以外の周囲の棚も視界に入るから、「あ、こんなところに」との思いが何度か胸をよぎる。
 その時は、目下の作業があるので、目の端に入れておくだけだが、その積み重ねが、次の仕事につながってゆく。
 掘り出されるのを待っていた掘り出し物は、こんなアナログの世界の中に今日も埋まっている。

7月19日
 17日の晩、久し振りに月を見た。曇天に星はない。
 寝る前に寝室の南の窓を開けたら、まん丸い月がある。調べてみると満月だった。7月に入ってから、雨ばかり降っている。晴れ間は長続きせず、今月 花壇の水遣りを1回しかしていない。今週も、霧雨と本降りを繰り返している。
 翌18日、母の三回忌法要をした。横浜の実家に行き、父と二人で母の眠る町内のお寺へ向かった。家の前にタクシーが着いて、父と玄関から門扉まで歩いた。その間ほんの数メートルである。
 乗車して足もとを見ると、漆黒のワンピースの裾に黄緑色の小さな かまきりがいた。父に小声で告げたが、運転手さんには言わず、そのまま車は出発した。タクシーを降りて、
 「お母さんが ついてきたのかな」
 と言いながらスカートを見たが、もういない。すると父が、「ここに」 と自分の肩を指す。かまきりは、肩から父の毛のない頭へ止まったそうで、私が見たときには、もう寺の地面に降りていた。本堂の入口で、「どうぞ」と言うように小さな鎌を揚げている。
 父は、法要の前夜から歯痛があり、18日の早朝には、
 「オレ、ちょっと無理かもしれん。一人で行ってくれないか」 と私に電話をかけてきていた。その後、痛み止めの薬が効いて状態も落ち着き、二人で出かけたのだった。
 「かまりきの子どもだね」
 「きっとお母さんが心配してついてきたんだね」
 父と並んでご住職の読経を聞き、無事に法要もすんだ。
 午後には歯医者に行き、治療も順調にすんだ。
 かまきりの子は、お寺の広い庭で、元気に育つだろう。
 過ぎゆく日常の、何かに、何もかもに、ありがとう。

7月3日
 カメ 産卵。
 連日雨が降っている。やっと雨のやんだ昨日の午後、飼い亀の居場所を掃除した。落ち葉を掃くと、ちりとりの中にコロコロと無数のだんご虫が入ってくる。
 シャワーで地面もきれいに流して、水桶に水をはると、久し振りにエサをねだる。アサリの剥き身をあげるとペロリとたいらげた。このところ食欲不振だったが、卵が下におりて来たせいだったのか。
 何ごともない午後が過ぎ、店主と閉店作業をする。シャッターを閉め、カメに、「また 明日ねー」 と声をかけていると、店主が、
 「たまご うんでるぞ」
 と言う。 そしらぬ顔のカメの傍らに、白いたまごがあった。今年は水の中ではなく、日向ぼっこ用の台の上で産んでいた。
 無事だったのが4つ、台から落ちて既にひびの入っているのが3つの、合計7このたまごがあった。
 「明日、ここを通る子どもたちに見せてあげよう。」 と、無傷の4こを大事に抱えてそっと洗った。
 今朝、郵便局に行く途中、堀切菖蒲園駅前ガードのツバメの巣を見上げた。数日前まで、小さな巣にあふれんばかりでエサをねだっていた4羽のひなは、もう1羽も見えない。
 みんな巣立って 飛んでいった。
 ふくらんだムクゲのつぼみが、今年も夏が来ると告げている。

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