ユーコさん勝手におしゃべり

7月10日
 先日、上野の寄席に落語を聞きに出かけた。上野へは電車一本で行かれるので、時々店主と寄席見物に行くことがあるが、今回は、
 「落語は、何とか会館みたいなところで聞いたことはあるけど、寄席は初めて」 という人と一緒である。 飲み物とちょっとしたおやつを買って、開場早々に席に着く。
 私にとっては、知ったメンバーで聞いた噺だけれど、隣りの人は初めてだと思うだけで、新鮮な気持ちになる。そして不思議なことに、初めて聞くように面白かった。味があるとか言い回しがうまいとか、そんな風ではなくて、オチの面白さに楽しく笑った。
 漫談のネタも、そう変わるものではないのに、隣りの人の新鮮な反応に感化されて、初めてのように見聞きすることができた。
 これはうれしい発見だった。目からうろこ、とはよく言うけれど、目のうろこは自分で勝手にはめたものだったんだ。
 閉演後もずっと、今聞いたばかりの落語談義をしながら道を歩いた。

7月6日
 蓮の花の季節がやって来た。埼玉・行田の古代蓮の里が見頃だというので、朝早くしたくをして外に出た。ドアを開けると、小庭の飼い亀がいつになくゆったりとした顔で水につかっている。
 一月ほど前から食欲がなく、昨日までのここ2・3日は特に落ち着きなく穴を掘っていた。店主が、
 「卵、産んだんじゃないか」 と言い、水桶の上に半分かかっている覆いを取ると、きれいな白い卵が五個並んでいた。例年より大きい卵だった。
 「これじゃあ、出すのは大変だったろうな」
 「今年はずい分 難儀してたもんね」
 と、出かけるのは後回しにして、しばらく卵を鑑賞した。
 エサをあげると、全開の食欲でモリモリ食べた。無精卵なので卵に未練はないが、近所の亀友達のために、土桶の隅に五個の卵と、「今朝うみました。」と書いた厚紙をいっしょに置いた。
 家に入って、手を洗ったり再び出かけるしたくをしていると、さっそく保育園に行く途中の親子連れが、
 「たまごだ。」「たまご うんだんだ。女の子だったんだね。」
 と言っている声がした。

 古代蓮の里では、バンのヒナが白眉だった。睡蓮の葉の上を、親鳥と同じ黒い羽にオレンジのくちばしのひよこが2羽、ひょこひょこ歩いていた。チョウトンボもキラキラ翔んで、カメラマンたちを楽しませていた。
 蓮は期待にたがわず見事だった。ボランティアガイドさんが、
 「そういえば あっちの池で、さっきモネが絵を描いていましたよ。」 と言う。
冗談として笑ったけど、本当に将来のモネがいてもおかしくはない、絵になる景色だ。
 帰りに、田んぼが続く田舎道沿いのうどん店に行った。私たちの次に、二人連れの客が店の裏口を開けて入ってきた。先に歩いてきた方の人が、「ア、カエルが入っちゃった」 と腰を低くしてカエルを追った。うまく追い出せたらしく、小上がりに上ろうとした時、うしろから入った人の背中にカマキリがとまっていた。
 「あの、肩にカマキリがついてますよ」
 と声をかけた。 もう一人がカマキリをとって外に出して、何事もなかったようにうどん屋の日常はすすんでいった。私は、「カマキリがついてますよ」なんてセリフを言ったのは、生まれて初めてだな と楽しい気分になった。
 帰宅すると、カメが、「明日のごはんはなぁに」と言うように、頭をもたげて出迎えてくれた。

6月のユーコさん勝手におしゃべり
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