ユーコさん勝手におしゃべり

5月27日
 追いつ追われつ季節が移っていく。
 今朝の新聞に、稚内で桜が開花したとあった。桜花が様々な季節の花や新緑をつれて、列島を南から北へ、平野から高地へのぼってゆき、いよいよゴールとなった。
 この間までつぼみだったのに急に色づき咲き始めたあじさい、返り咲きのつつじ、そして今を盛りのバラ。街中はまるで母子三代競演の舞台のようにあでやかだ。当地では来月早々からはじまる菖蒲まつりに向けて、商店街にちょうちんがつき、何とはなしにいつもより華やいでいる。
 先週末のこと、何かのイベント帰りか子どもたちがわいわいとさざめきながら近づいてくる声がした。
 私は店内で、道路に背を向けてパソコンに向かっていた。すると、店の前で5歳くらいの男の子の声が、
 「ここってねぇ、いらない本売ってるから、本はひとつしかないんだよ。 知ってたぁ?」
 と ちょっと得意気に別の子に話しかけた。
 私は吹き出しそうになった。うちはまず子どもは入ってこない店だ。大人の人に聞いた知識なのだろう。ちょっと違うけど、あたっている。
 確かに誰かにとっていらない本を売っている。興味のある人には宝の山で、興味のない人には不用品の集積だ。コレクターとその家族と言い換えることもできる。
 そして同じ本はひとつしかない。同タイトルでも版が違ったり、状態が異なるのだから。
 何気ないことばだが、中々深く的を得ている。私はメモ紙に書き留め、
 「ねぇねぇ、今ね、ここを通った子どもがね…」
 と、可愛い声のそのことばを店主に伝えた。

5月22日
 いつものように7時に店を閉めて、外に出る。
 薄暮の道を、3歳くらいの男の子が初老の男性と手をつないで歩いてきた。男性が
 「いっぱい食べちゃったな。 おかあさんにおこられちゃうな」
 と言うと、男の子が明るい高音でヒックと小さくひゃっくりをして
 「"ひっく"だね。 ママにおこられちゃうね」 とこたえた。
 暗くて表情は見えないが、声が笑顔だった。
 何を食べたんだか、男同士の秘密だね。
おじいちゃんと孫の、ちょっとうしろ暗い秘密の香りにわくわくしたオーラが、伝わってきた。

5月14日
 陽光にいざなわれて旅に出る。
 店主のバイクの後ろに乗って、先週は群馬・碓氷峠に出かけた。日常ではありえない風量を浴びて、高速道路を走る。
 伸びてきた麦の穂、水田の仕度、キャベツ畑、緑の香り、牛舎のにおい。
 晩春の風とにおいを体いっぱいにひきうける。
 高速を降りて山に入る。沿道にりんごの花がみえた。高度が上がると緑の色数は格段に増え、山藤と山桐の紫色が目を楽しませた。たくさん歩き、温泉に浸り、峠の釜飯をいただいて帰った。
 そして今日は、茨城へ。常磐自動車道の友部サービスエリアで一休みしていると、頭上に無数のつばめが鳴き交わしている。テラスの屋根の下にいくつも巣がある。近隣の田んぼの土で作った巣は、都会のつばめの巣より堅牢そうにみえた。
 大洗で高速を降り、那珂湊漁港で腹ごしらえ。昼食をとったお店のおばちゃんが、
 「今日は天気がよくってよかったね。昨日まで寒かったのよ」 と、バイクに乗る私たちに声をかけてくれる。
 磯の香りを楽しみながら、国営ひたち海浜公園までドライブ。
 ネモフィラの丘は満開で、陽射しの中で輝いていた。園内巡回のシーサイドトレインに乗っていると、スッと涼風を感じた。同じ車両に乗っている遠足の園児が、「雨だよ!!」とママに訴えているが天気は良好だ。大きな池の前を通った時で、噴水のしぶきがとんできているのかしらと思った。
 すると、みるみるうちに冷たい白いもやがやってくるのが見え、にわかに気温が下がった。車両はすぐ目前が海の砂丘エリアを通った。地面は海の砂だけれど、そこにあるはずの海はまっしろで見えず、まるで高い山にいて眼下は雲海、といった風情だった。海霧というのだろうか。短時間で天気のマジックをみせてもらった。
 高速道路での帰途、東京が近づくにつれ、気温はまたどんどん上がっていった。
 帰宅後、青森のお客様からメールが届く。
 「弘前はまだ桜が残っています。その代わり、りんごの花が2週間遅れていて、農家の人が大変です。」 と。
 先週群馬で見たりんごの花を思い出す。時々やってくるお客様からの便りに、まだ行ったことのない土地を想像する。
 実際に行くのも、こうして思いをはせるのも、また旅である。

5月13日
 プランターの植え替えをした。
 強くなってきた陽射しに誘われて、昨日園芸店へ苗を買いに行った。2件をまわって必要な品数を買い揃え、いよいよ明日は早起きして植え替えだと思うと、わくわくして何だか眠れない。
 そして朝、用意した苗を地べたに並べて、頭の中にある図にあてはめてみる。子どものころ、ままごと遊びの際に
 「ここが玄関で、こっちが台所ね」 などと言いながら、地面に棒で線をひいた。誰にも邪魔されずに世界を動かすストレスフリーな時間を思い出した。
 ゆっくり楽しみながら作業する。
 あっという間に数時間がたち、思うような初夏の庭になる準備は整った。さいごに水をあげていると、上空にクロアゲハとキアゲハが飛んでいた。
 「庭の花が変ったことに気付いたかしら、驚いているかな。」
 と、いろいろ考えたが、わからない。はたして蝶に驚くという心の動きがあるのかどうかもわからないが、今年も来てくれて、ありがとう。

5月7日
 天候のゴールデンウィーク・リベンジ。
 週末となると天候不順だった今春のジンクスをくつがえす好天続きの連休だった。固いつぼみの群れだったバラや、開花の手前で逡巡していたジャスミンに開花の大号令がかかる。今まで小さな歩幅で進んでいた春が、5月を前に一気に加速した。連休に挟まれた3日間の平日は気温も低めだったが、最後の連休中に季節は春から初夏へかわった。
 外に出ると色と香りがあふれている。店の横の小庭のジャスミンも満開となり、鼻腔を楽しませた。(今年の春の様子はこんな感じ)
 そして連休最終日の昨日、昼間は好転だったが、夕方急に曇ってきた。店舗で聴いていた軽井沢FMのDJ氏が、
 「浅間山に灰色の雲がかかって、空が怪しい色になっています。」と言っている。
 そのうち雷鳴が聞こえ、大粒の雨が降ってきた。雷光とともにスコールのように降り、15分でぴたりとやんだ。今年初の夕立であった。
 雨のあとは、道にも亀の水槽にもジャスミンの花がたくさん散った。
 季節の境目を知らす夕立の翌朝、掃いても掃いても散ってくる花を集めながら、次の季節の構想を練った。

4月のユーコさん勝手におしゃべり
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