ユーコさん勝手におしゃべり

4月30日
 今朝、窓辺でジャスミンのさいしょの一輪がひらいた。
 さいしょのひとつを見つけるよろこび。
 皐月の今年初の開花は雨の日で、純白の花が開くなり雨にうたれた。
この時季、次々やってくるさいしょの一輪に、いつも気分が鼓舞される。
 今年はお正月早々に地震があり、昨晩も千葉北東部に震度5弱があった。時々やってくる揺れだが、植物や昆虫たちに不安な気配はみられない。
 それでも今在る、という観点で見れば、世界は、喜びに満ちあふれている。

4月29日
 ゴールデンウィークがはじまる直前、季節をさかのぼる旅に出て、好きな時節をおさらいする。今年も25・26日に群馬へ出かけた。
 東北自動車道を館林で降りると、麦畑が迎えてくれる。麦の穂はまっすぐ上を向いている。天へ天へ伸びてゆく春の麦は、深く頭を垂れる秋の米と対照的で、どちらも手を合わせたくなる美しさだ。
 梨の花の咲くのを見ながら高度を上げる。もくれん、れんぎょう、芝桜、チューリップ、4月の楽しみのつまった車窓だ。赤城山のふもと、サクラ草自生地で持参のホットドッグの朝食をとった。栽培種のサクラ草は、東京でもこれでもかと花を咲かせていたが、こちらはつつましやかな背丈で、花もまだこれから咲こうかというところだった。時々見える牛舎の牛に手を振りながら、本日の第一メイン、赤城南面千本桜へ。今年は開花が遅れたので、25日まで桜まつりを延長したとのことだが、これが大当たり、25日はズバリ満開だった。駐車場附近でははらはらと絶え間ない桜吹雪を浴び、両側桜並木の一本道を登ってゆく。歩きはじめは花吹雪だったのが、少しずつ高度が上ると散る桜が減り、いよいよ息があがる頃には散るものはなく、本日満開、の体になる。翌日は雨の予報だったので、有終の美ということばがふさわしい祭の最終日だった。
 赤城山から渋川へおり、昼食の弁当を買って、第二のメイン吾妻渓谷へむかう。庭先や花壇の花色で、「群馬に来たな」と感じる。寒暖の差が激しいから、色が鮮やかになるのだろう。古い神社があちこちにあり、どこも大きな桜の木がある。田んぼの中にある名前も知らない古社の満開の桜の下でお弁当を食べた。
 吾妻渓谷を散策し、あちこち寄り道をしながら、今日の宿、四万温泉へ向かう。高度が上るにつれタイムスリップする。桜から、桃の花、杏の花、そして、梅が咲く四万温泉へ到着すると、いつもゴールデンウィーク直前には咲いている桜が、これから一分咲に向おうかというところだった。見頃はゴールデンウィークもおわりの頃になるだろう。芽吹き始めたけやきの新芽がきれいだった。
 たっぷりと温泉につかって翌日は、桐生、足利を通って、佐野ラーメンをいただいて帰宅した。
 帰るやいなや、たまっていた仕事をせっせと片付ける。本が待っていてくれる。帰るところがあるから出かけられるんだよ、と店をあけるいいわけをしつつ、精を出した。
 そして今日は午前中、足立都市農業公園へ八重桜を見に行った。寒かった冬の影は今はもうなく、先を急ぐように、5月に向けてバラがつぼみを蓄えている。
 午後は、近くのスーパーの朝市で買った8パックのいちごで、いちごジャムを作った。じっくりとろ火で土鍋いっぱいのいちごジャムを作り、いくつかのビンに入れる。
 ビンに春をとじ込めて、4月は往く。

4月16日
 土曜日の雨で東京の桜はすっかり終了した。今は、天にある花よりも、地に降った花びらが道を染めている。
 昔から桜は、「まつり」を呼ぶ花だった。咲けばその下で宴を催したくなる。
 しかし、いっせいに咲き、ひといきに散り、周囲の染井吉野という染井吉野が二日とたがわず行動を共にするのを見て、人ではなく、この花の方が祭り好きなのではないかと気付いた。
 桜に種類は多い。染井吉野が去って間髪を入れず早咲きの八重桜が咲きだしたけれど、こちらは静かに咲き始め、ゆるりと満開を迎える。
 可憐に見える花でも、他の植物はそれぞれマイペースを保ち、自分の咲きたいときに咲いているようだ。
 「せーの」と誰かがかけ声をかけたかのように咲きだし、「わっしょい!」と叫ぶように天をピンクに染め、風に踊りひとしきり舞って、あとは新緑の中に紛れ込んでしまう。
 —世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし—
 まったくこの花の祭り好きにはまいっちゃうね。人の方もつい、のせられちゃうよと、時間を見つけてはせっせと近隣の桜を見て歩いたこの一週間を総括しつつ、また来週は、群馬の赤城山あたりに、桜を愛でに旅立つ予定でいる。

4月9日
 春は、来るとなったら一気に来た。
 「今日はどこへ行く?」「明日はどこで花見する?」 と連日店を開ける前に大忙しで、あっちの公園、こっちの土手と見て歩く。
 公園の主役は日々次々かわる。
 満開の黄色が鮮やかなレンギョウ、レースを敷きつめたような純白の雪やなぎ、木の上から「ピー ツツピー ツツピー」と美声を響かせるシジュウカラ。
 近所のお寺の水がめには小さいおたまじゃくしが無数にいた。
 そして、全ての花のバックに薄ピンクの染井吉野があらわれる。真打登場で、公園巡りもいよいよ今日は、墨田公園へ出かけた。桜も立派だが、平日の午前中だというのに人出もすごい。
 昨年の静かな花の宴とはうってかわった華やぎだ。墨田区役所の方から土手を歩き、桜橋を渡ると歌舞伎の平成中村座の小屋が建っていて、その裏手を通ることになる。ちょうど劇場のうしろ側が大きく開いていて舞台を書き割りの裏から覗いた。
 桜に歌舞伎にスカイツリーに屋形船、道に人力車が行き交い、にぎやかな雑誌の表紙絵の中にいるような半日だった。
 帰宅後、庭のプランターに水やりをしていたら、白くて三角形の小さな蛾がアイビーの葉にとまっていた。今年初めての来訪者だ。驚かさないようにそっと葉に水をかけた。

4月1日
 ちょっと乱暴な花咲じいさんがやってきた。
 おととい、ちょっとあったかくなってきたと思ったら、夕方から風が強くなった。外に出ている均一台の本もあらかたしまった頃、お客さんが外の本を3冊持っていらっしゃった。お代をいただき、本を拭いて袋に入れながら
 「風が強いですね」 と言うと
 「春一番のかわりかね。これでいい春になるといいね。」 と応えた。
 その後強風にあおられるように店を閉めた。
 3月末の昨日は一日春の嵐で、店は開けず、書庫で風雨の音を聞きながら仕事をした。
 いつもならこの時期桜が咲き初め、「花散らしの雨」と嫌われるところだが、今年はこの風が目覚めの遅い桜のつぼみを呼び起こす役目となった。
 おとといはどれもつぼみだったが、昨日の午前中には、一本に二つ三つ開いているのがみえた。
 祈る人の手のように純潔な生成りのつぼみを天に向けていたモクレンも一気に開いた。
 明けて今日、3月と4月の景色をきっかり隔てるような陽光が、花々を輝かせた。

3月のユーコさん勝手におしゃべり
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